「形だけの人権方針」が招く悲劇――マツバソーイング事件から学ぶ ~BHR推進社労士の視点~(2026/3/21)
2026年3月4日(火)、共同通信配信 の報道によると、岐阜労働基準監督署(署長:中野正樹)は同日、外国人技能実習生3人に法定休日を与えず違法な時間外労働をさせるなどしたとして、縫製業のマツバソーイング(岐阜県岐阜市)と同社代表(女性・53歳)を労働基準法第35条(休日)違反などの疑いで、岐阜地方検察庁に書類送検した。これは 2024年2月21日〜2024年6月7日 の期間に対する立件である。
この企業では、最長の実習生が 67日連続勤務 となり、賃金未払い総額は約 412万円 にのぼるなど、法定休日・残業管理・賃金支払いなどの基本的な労働条件が完全に崩壊していた。
ここで強調したいのは、単なる違法行為の問題ではありません。この会社は 2024年3月13日 に、日本繊維産業連盟の「責任ある企業行動ガイドライン」に基づく人権対応を実施すると宣言していた最中 に、現場では法定休日ゼロ・違法残業・賃金未払いが続いていたのです。
さらに、この企業は 監理団体経由で人権方針を提出していた と報じられていますが、ここに重大な疑問が残ります。
監理団体はいったい何を見ていたのか? きちんと監査していたのか? BHRを理解していたのか?甚だ疑問であり、方針提出だけで終わる構造的問題が露呈しています。
さらに言えば、人権方針を掲げる前に、人権への負の影響の特定を行う必要があります。基本さえも理解せずに人権方針だけ作成したのであれば、信用失墜行為 以外の何物でもありません。まずは、異常な勤務体制を適正化してから、人権方針を作成すべき です。
中小企業におけるBHR実装の「一丁目一番地」はまず、法令順守、安全な労働環境、休日・残業管理、賃金支払い、ハラスメント防止 です。これらを押さえずに、形だけ人権方針を掲げても、現場は何も改善されません。結果として、「宣言だけしておけば、なんとかなる」とでも思っていたのでしょうか?
法定休日ゼロ・月166時間超の違法残業・賃金未払い――現場は異常な労働条件のまま放置され、結果として、業界全体の信用まで巻き添えにすることになった のです。
今回のマツバソーイング事件はまさに、BHRを理解せずに「方針だけ先行させた最悪の実例」。現場運用は完全に放置され、結果として宣言は信用失墜の道具にしかなりませんでした。
教訓は明確です。中小企業がBHRを実践するなら、コンプライアンスとハラスメント対策を全力で行うことを強く強調しておきます。人権方針を掲げるなら、強い決意をもって取組んで頂きたいと願うばかりです。
現場目線チェックリスト:自社のBHRは大丈夫か?
読者の皆さんが、自社で同じ失敗をしていないか確認できる簡単チェックリストです。
法令順守
労働基準法に基づき、休日・残業・賃金の管理は適切か?
36協定は正しく締結されているか?
安全な労働環境
作業場や設備は安全か?事故や健康被害リスクはないか?
休日・残業管理
従業員に法定休日が確実に与えられているか?
月間残業時間は過重でないか?
賃金支払い
残業代・休日出勤手当を含め、給与は適切か?
未払い・遅延はないか?
ハラスメント防止
セクハラ・パワハラ・差別などの相談窓口は機能しているか?
研修や啓発活動は実施されているか?
方針と現場運用の一致
BHR方針を掲げているだけではないか?
実際に現場でルールが守られているかを確認しているか?
このチェックリストを活用すれば、形だけの人権方針に陥る前に自社のBHRの穴を可視化できます。
≪ なぜ自治体にBHRが必要なのか ―現場の判断を“仕組み”で支えるという考え方― BHR推進社労士の視点 | 中小・中堅企業の責任ある企業行動の好事例集が公開されました ≫
