【2027年度・令和9年度 社労士試験予想】「ビジネスと人権(BHR)」が出題されるかもしれない!?―第9次社会保険労務士法改正から考える(2026/10/2)
令和9年度(2027年度)社労士試験に「ビジネスと人権」が出るかもしれない!?
――第9次社会保険労務士法改正、国家行動計画(NAP)、そして9.3%の合格率から考える
2026年10月1日、第58回社会保険労務士試験の合格発表がありました。
合格率は9.3%。
近年の社会保険労務士試験としては、かなり高い数字です。
今年は平均点も上昇しました。また、受験関係者の評価を見聞きする限り、難問・奇問で受験生を振り落とすというより、基本をきちんと勉強してきた人が、その実力を比較的発揮しやすい試験だったようです。
私はこの結果を見て、ふと思いました。
もしかすると、来年以降の社会保険労務士試験は少し変わるのではないか。
もちろん、何の内部情報もありません。
これから書くことは、現在起きているいくつかの事実を、BHR(ビジネスと人権)の実務に携わる一人の社会保険労務士として、私なりにつなぎ合わせた「予想」です。
当たるかもしれない。
まったく当たらないかもしれない。
そんな気持ちで、少しお付き合いください。
9.3%から2.6%へ――かつて何が起きたのか
社会保険労務士試験には、忘れられない数字があります。
9.3%と2.6%です。
2014年度、第46回社会保険労務士試験の合格率は**9.3%**でした。
受験者44,546人に対して、合格者は4,156人。
当時としては、かなり高い合格率でした。
ところが翌2015年度、第47回試験。
合格率は一気に**2.6%**まで低下します。
受験者40,712人に対して、合格者はわずか1,051人でした。
9.3%から2.6%へ。
そして、この二つの試験の間にあった大きな出来事の一つが、第8次社会保険労務士法改正です。
2014年に成立した第8次改正では補佐人制度が創設され、社会保険労務士は弁護士である訴訟代理人とともに裁判所へ出頭し、専門家として陳述することができるようになりました。
社会保険労務士の職域が大きく広がった改正でした。
もちろん、
「第8次改正があったから、翌年の試験を2.6%まで難しくした」
などと言うつもりはありません。
そのような因果関係を示す根拠はありません。
しかし、ここで今年の数字を見てください。
2026年度、第58回社会保険労務士試験の合格率も9.3%です。
12年前と、まったく同じ数字です。
そして今、社会保険労務士制度では、第9次社会保険労務士法改正という大きな変化が起きています。
もちろん、これも偶然でしょう。
来年の合格率が2.6%になるなどと言いたいわけでもありません。
しかし私は、この二つの「9.3%」を見て、少し気になりました。
2014年度 9.3%
↓
第8次社会保険労務士法改正
↓
2015年度 2.6%
そして、
2026年度 9.3%
↓
第9次社会保険労務士法改正後の新しい社会保険労務士像
↓
2027年度 ?
もちろん、これは単なる数字遊びかもしれません。
しかし、現在起きている社会保険労務士制度の変化まで重ね合わせると、私はどうしても思ってしまうのです。
「来年の社会保険労務士試験、本当に今年と同じような試験になるのだろうか」と。
第9次社会保険労務士法改正は、何を変えたのか
2025年に成立した、第9次社会保険労務士法改正。
私は、この第9次改正を非常に重要なものだと考えています。
特に注目しているのが、第1条です。
従来の「目的規定」が改められ、新たに**「社会保険労務士の使命」**が明記されました。
そこには、
「個人の尊厳が保持された適正な労働環境の形成」
に寄与することが、社会保険労務士の使命として掲げられています。
さらに、第9次改正では「労務監査」についても社会保険労務士の業務として明記されました。
私は、これは単なる業務範囲の追加や、条文上の文言変更ではないと思っています。
社会保険労務士とは、何のために存在する専門職なのか。
その使命そのものが法律に書き込まれ、その中に「個人の尊厳」という言葉が置かれたのです。
第8次改正では、「何ができる専門職なのか」という職域が大きく広がりました。
そして第9次改正では、
「何のために存在する専門職なのか」
という使命にまで踏み込んだ。
私は、この違いは大きいと思っています。
第9次社会保険労務士法改正による使命規定は2025年6月25日に施行されており、2026年度試験でも出題可能な範囲に入っていました。しかし、今年の試験では使命規定そのものは出題されませんでした。
そして「ビジネスと人権」
もう一つ、大きな流れがあります。
ビジネスと人権(BHR:Business and Human Rights)です。
全国社会保険労務士会連合会は、BHRへの取組を進めています。
BHRを一部の専門家だけが知っていればよい特殊な分野ではなく、社会保険労務士が人権尊重経営を理解し、企業を支援していくための基礎として広げようという動きがあります。
そして、さらに重要な出来事がありました。
政府の「ビジネスと人権に関する行動計画(National Action Plan:NAP)」です。
いわゆる、ビジネスと人権に関する”国家行動計画(NAP)”です。
その改定版に、「BHR推進社労士」が明記されました(NAP28ページ)。
ILOへの拠出を通じ、全国社会保険労務士会連合会と協力しながら、中小企業の人権尊重の取組を支援する人材として、BHR推進社労士を育成していく。
私は、この意味は非常に大きいと考えています。
かつて第8次社会保険労務士法改正によって、社会保険労務士は弁護士とともに法廷に立つことができるようになりました。
そして第9次社会保険労務士法改正では、「個人の尊厳」が使命として掲げられた。
さらに、日本政府の国家行動計画(NAP)にも「BHR推進社労士」という名称が登場した。
私は、これらを別々の出来事としてではなく、一本の流れとして見ています。
では、社会保険労務士試験はいつまでも同じなのか
ここからは、私の推測です。
今回の9.3%という合格率。
私はこれを単純に、
「今年は簡単だった」
だけでは終わらせていません。
今年は基本に忠実で、長年きちんと勉強を積み重ねてきた受験生が、その力を比較的素直に得点へ変えることのできる試験だったのではないでしょうか。
ここ数年間、5%台、6%台という狭き門に挑戦し続けてきた実力ある受験生も相当数いたはずです。
そうした人たちが今回かなり合格したとすれば、来年の受験者集団そのものも少し変わります。
そして、そのタイミングで社会保険労務士という専門職に求められる役割も変わりつつある。
ならば私は考えます。
そろそろ試験で問われる「一般常識」の中身にも変化が現れるのではないか。
第9次社会保険労務士法改正。
全国社会保険労務士会連合会によるBHRへの取組。
国家行動計画(NAP)へのBHR推進社労士の明記。
これだけ周囲の環境が動いているのに、社会保険労務士試験だけが永遠に同じ方向を向き続けるのでしょうか。
私は、そうは思っていません。
私なら、こんな問題を出す
ここからは、勝手に試験問題を予想してみます。
あくまで私個人の予想です。
星の数は、私が考える「近い将来の出題可能性」です。
統計的な確率ではありませんので、念のため。
★★★★★ 国連「ビジネスと人権に関する指導原則」の3本柱
私が最も注目しているのが、国連「ビジネスと人権に関する指導原則(UNGPs)」の3本柱です。
それは、
国家の人権を保護する義務
企業の人権を尊重する責任
救済へのアクセス
です。
私が試験委員なら、このうち一つを選択式で抜きます。
例えば、
「企業の人権を( )する責任」
答えは、
「尊重」
です。
BHRの基礎中の基礎です。
第9次社会保険労務士法改正によって「個人の尊厳」が使命として掲げられた以上、この程度の基礎知識が将来問われても、私はまったく不思議ではないと思っています。
★★★★☆ 2011年、そしてジョン・ラギー
国連「ビジネスと人権に関する指導原則」が国連人権理事会によって支持されたのは2011年です。
これも選択式なら非常に作りやすい。
「国連『ビジネスと人権に関する指導原則』は( )年に国連人権理事会によって支持された。」
ここを空欄にする。
知っていれば簡単です。
知らなければ意外と迷うでしょう。
そして、その策定を主導したジョン・ラギー国連事務総長特別代表。
この人物名を絡めれば、もう少し難易度を上げることもできます。
★★★★☆ ILO「安全で健康的な労働環境」
これも、私はかなり注目しています。
ILOは「労働における基本的原則及び権利」として、
1結社の自由及び団体交渉権の実効的な承認
2あらゆる形態の強制労働の撤廃
3児童労働の実効的な廃止
4雇用及び職業における差別の撤廃
そして、
5「安全で健康的な労働環境」
という5分野を掲げています。
最後の「安全で健康的な労働環境」は、2022年に基本的原則及び権利に追加されたものです。
私なら、ここを抜きます。
例えば、
「ILOは2022年、労働における基本的原則及び権利に、( )を追加した。」
答えは、
「安全で健康的な労働環境」
です。
これは面白い問題になると思います。
社会保険労務士試験の受験生なら、労働安全衛生法は当然勉強します。
しかし、
「安全で健康的な労働環境そのものが、ILOによって基本的な権利として位置づけられている」
という国際的な視点まで知っている人は、どのくらいいるでしょうか。
国内労働法と国際労働基準をつなぐ問題として、私は十分にあり得ると思っています。
★★★★☆ 「人権デュー・ディリジェンス」
これも近い将来、出てもおかしくない言葉です。
人権デュー・ディリジェンス(人権DD)。
ただし、最初から人権DDの詳細なプロセスまで問えば、現在の受験生にはかなり厳しいでしょう。
ですから、最初は、
「人権デュー・ディリジェンスとは何か」
という用語や基本概念程度ではないか。
私はそう予想しています。
★★★☆☆ 2013年、ラナ・プラザ崩壊事故
そして、少し踏み込んだ予想です。
ラナ・プラザ崩壊事故。
2013年4月24日、バングラデシュの首都ダッカ近郊で、複数の縫製工場などが入っていたラナ・プラザが崩壊しました。
この事故によって、1,134人もの人々が命を失いました。
犠牲者の多くは縫製工場で働く労働者でした。
そして、この事故を理解するうえで重要なのは、そこで作られていた衣料品が、バングラデシュ国内だけで消費されるものではなかったということです。
バングラデシュの縫製産業は、欧米をはじめとする世界的なアパレルブランドや小売企業のグローバル・サプライチェーンに深く組み込まれていました。
ILOによれば、バングラデシュの縫製産業では女性が労働者の多数を占めてきました。また、典型的な縫製労働者について、若い女性で、農村部から都市部へ移って働く国内移住労働者であると説明しています。
つまり、世界の消費者が手にする衣服の向こう側で、若い女性や農村部から移ってきた労働者たちが働いていた。
そして、そのグローバルなサプライチェーンの中で起きたのが、ラナ・プラザ崩壊事故でした。
事故後、世界のアパレルブランドや小売企業、労働組合などが参加する「バングラデシュにおける火災予防及び建設物の安全に関する協定(Accord)」が結ばれ、工場の安全性や労働者の権利、そしてグローバル・サプライチェーンにおける企業の責任が、国際的に大きく問われることになりました。
私は、ここが重要だと思っています。
なぜ企業が、自社で直接雇用している労働者だけを見ていればよい時代ではなくなったのか。
なぜ、取引先やその先のサプライヤーで働く人々の人権まで考えなければならないのか。
そして、なぜ世界で「ビジネスと人権」がこれほど重要なテーマになったのか。
1,134人の命が失われたラナ・プラザ崩壊事故は、そのことを考えるうえで決して忘れてはならない出来事の一つだと私は思っています。
だからこそ、少し踏み込んだ予想ではありますが、
「2013年・ラナ・プラザ崩壊事故」
私はこれも、社会保険労務士が知っておくべき出来事の一つとして挙げておきたいと思います。
社会保険労務士になる「前」からBHRを学ぶ
そして、私が社会保険労務士試験にBHRが出題される可能性を考える理由が、もう一つあります。
試験に出れば、人は勉強するからです。
社会保険労務士になってから研修を受け、BHRを知る。
もちろん、それでも構いません。
しかし、第9次社会保険労務士法改正によって「個人の尊厳が保持された適正な労働環境の形成」への寄与を使命として掲げられた専門職です。
それならば、社会保険労務士を目指す段階から、
国連「ビジネスと人権に関する指導原則」
ILOの国際労働基準
人権デュー・ディリジェンス
救済へのアクセス
といった基本事項を学ぶ。
私は、何も不思議なことではないと思っています。
試験に出題すること自体が、BHRの普及になる
さらに重要なのは、合格者だけではありません。
社会保険労務士試験には、毎年多くの人が挑戦します。
試験範囲にBHRが入れば、その受験生たちがBHRを勉強することになります。
資格学校のテキストにも載るでしょう。
講師が説明するでしょう。
模擬試験にも登場するでしょう。
そして受験生の中には、企業の人事・総務・労務部門で働いている人もいます。
つまり、
社会保険労務士試験にBHRを出題すること自体が、日本の企業社会にBHRを広げる一つのきっかけになり得る。
私は、ここにも大きな意味があると思っています。
社会保険労務士になった数千人だけにBHRを伝えるのではありません。
社会保険労務士を目指して勉強している、もっと多くの人たちにも知ってもらう。
その人たちが勤務先に戻れば、企業の中にも知識が広がっていく。
そう考えると、社会保険労務士試験とBHRは、決して遠い関係ではないように私には思えるのです。
「最初の一問」が意味するもの
そして、もし2027年度試験で実際にBHRが出題されたら、私はその一問にはかなり大きな意味があると思っています。
なぜなら、それは単なる「今年の一般常識の一問」で終わらない可能性があるからです。
一度、社会保険労務士試験の出題領域としてBHRが明確に入れば、翌年以降、資格学校も対応するでしょう。
テキストにBHRの項目ができる。
講義でUNGPsを説明する。
模擬試験で人権DDやILO中核的労働基準が問われる。
そして翌年の受験生は、それを「試験範囲の一つ」として当たり前に勉強するようになる。
もちろん、毎年必ずBHRが出題されるとは限りません。
しかし、
BHRが、これから社会保険労務士を目指す人が学ぶべき基礎知識の一つとして定着していく。
その可能性は十分にあると思います。
だから、もし来年BHRが出題されたら、私はその問題を、
「社労士試験にBHRが出た一問」
としてだけではなく、
「これからの社会保険労務士がBHRを学ぶ時代の、最初の一問」
として見ることになると思います。
2027年なのか、5年後なのか
ここまで書いておいて何ですが、2027年度試験に本当にBHRが出るかどうかは分かりません。
来年は何も出ないかもしれない。
2028年かもしれない。
あるいは5年後、突然本格的に問われるのかもしれません。
しかし、
第9次社会保険労務士法改正によって「個人の尊厳」が使命に掲げられた。
全国社会保険労務士会連合会がBHRへの取組を進めている。
政府の国家行動計画(NAP)にBHR推進社労士が明記された。
この三つの流れそのものは、現実に起きています。
だから私は予想します。
近い将来、社会保険労務士試験で「ビジネスと人権」が本格的に問われる日が来る。
それが2027年なのか。
2028年なのか。
それとも5年後なのか。
まずは2027年8月。
問題用紙を楽しみに待ちたいと思います。
最後に
私は現在、BHR推進社労士として、中小企業の現場で「ビジネスと人権」をどのように実装していくのかを考え、実践しています。
2026年3月には、ILO(国際労働機関)が公表した事例集『中小・中堅企業の責任ある企業行動:BHR推進社労士との協働実践例』に、私もBHR推進社労士の一人として紹介いただきました。
だからこそ私は、第9次社会保険労務士法改正、全国社会保険労務士会連合会によるBHRへの取組、そして政府の国家行動計画(NAP)へのBHR推進社労士の明記を、単なる制度上の出来事として見ていません。
社会保険労務士という専門職そのものが、少しずつ次の時代へ向かい始めている。
私はそう感じています。
この記事の予想が2027年度試験で当たるかどうかは、正直なところ分かりません。
しかし、この記事を読んだ受験生の方が一人でも、
「ビジネスと人権って何だろう」
と思ってくれたなら、この記事を書いた意味は十分にあります。
試験に出るから勉強する。
最初は、それでもいいと思います。
そこから国連「ビジネスと人権に関する指導原則」を知り、ILOの国際労働基準を知り、働く人の「個人の尊厳」について考える。
そしていつか社会保険労務士になったとき、目の前の企業や働く人たちを見る視点の一つとして、その知識が残っている。
そんな社会保険労務士が一人でも増えたら、私はうれしく思います。
さて、本当に出題されるでしょうか。
答え合わせは、2027年8月です。
これから社会保険労務士試験に挑戦される皆さんの健闘を、心から願っています。
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