【コラム】夜間の労働環境を見直すきっかけに──岡山の労災事案から学ぶ安全配慮の重要性(2025/5/15)

2023年12月、岡山県の飲食店で、夜間に作業中だった労働者が店舗裏の用水路に転落し、尊い命が失われるという痛ましい労働災害が発生しました。
この事故を受けて、労働基準監督署は、安全な通路の確保を怠った疑いで事業主を労働安全衛生法違反の疑いにより書類送検しました。
報道によると、事故現場は深夜で非常に暗く、照明設備がなかったとされています。また、通路が狭く、室外機が設置されていたことにより、通行可能なスペースが極めて限られていたとのことです。

安全配慮はすべての事業者に共通するテーマ
私たちがこのようなニュースを目にしたとき、つい「うちには関係ない」と思いがちです。しかし、このような出来事は、どの職場でも起こりうる可能性があります。
特に中小・小規模事業者では、業務に必要な設備や環境整備が後回しになってしまうケースも多く、結果としてリスクが見過ごされることがあります。
しかし、「いつもの作業だから大丈夫」「これまで問題なかったから大丈夫」と思っていた場所にも、事故の可能性は潜んでいます。今回の件は、改めて**「働く人の安全をどう守るか」**という基本に立ち返る大切な機会となるのではないでしょうか。
労働者の安全は、「人権」としても重視される時代に
いま、国際的にも企業活動における「人権への配慮」が求められる時代となっています。
ILO(国際労働機関)は「安全で健康的な職場環境」をすべての労働者に保障されるべき権利と位置づけており、日本国内でも「ビジネスと人権に関する行動計画(NAP)」を通じて、企業の人権配慮責任が広く認識されるようになってきました。
もちろん、「人権」と聞くと少し大げさに感じるかもしれませんが、「安心して働ける環境を整えること」そのものが、人としての尊厳を大切にすることにつながります。
これは大企業に限った話ではなく、小規模な店舗や個人事業でも、十分に取り組んでいける内容です。
小さな工夫が、大きな安心につながる
今回のケースでは、照明の設置や通路の整理といった比較的シンプルな対策でも、事故のリスクを大きく軽減できた可能性があります。
たとえば以下のような取り組みが考えられます:
夜間に使用する通路にはセンサー付きの照明を設置
狭い通路を整理し、移動経路を明確にする
安全な経路の案内表示を設ける
「危険を感じた場所」について従業員から意見を集め、対策を講じる
いずれも大きなコストをかけなくても、できる範囲で始められる工夫です。
私たち社労士ができること
BHR(ビジネスと人権)推進社労士として、私たちはこうした職場環境のリスクを事前に洗い出し、安全で安心して働ける環境づくりのお手伝いをしています。
労務管理と安全配慮の観点からの現場アドバイス
外国人や高齢者など多様な人材に配慮した働き方設計
従業員の声を取り入れたリスク管理体制の構築
日々の業務に追われる中で、つい見過ごされがちな安全への配慮。だからこそ、第三者の視点で一緒に点検し、改善策を考えていくことが大切だと感じています。
最後に──「安心して働ける職場」は信頼につながる
働く人の安全が守られていることは、従業員との信頼関係を築くうえでも大切な土台です。
一つひとつの工夫や配慮が、働く人の安心と、企業の信頼につながります。
今回の出来事を「他人事」とせず、わが身の職場を振り返る機会とし、命と安全を守る職場づくりに一緒に取り組んでいきましょう。
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