【実務対応編】従業員がDV被害に遭ったとき、企業が取るべき具体的行動と注意点――行政との連携・連絡不能時の対応も踏まえて(2025/6/1)
【企業がとるべき具体的なDV被害対応】
(出典:水谷英夫弁護士『ビジネスガイド』2023年10月号、実務経験による補足あり)
■ DV被害と企業の損失リスク
従業員がDV被害を受けると、精神的ストレス・睡眠障害・心身の不調などにより、出勤困難・集中力低下・業務ミス増加といったパフォーマンスの著しい低下が生じることがあります。これは単に個人の問題にとどまらず、職場全体の生産性低下やチーム機能の毀損にもつながり、結果的に企業にとって経済的損失となる重大なリスクです。
企業が従業員のDV被害を早期に察知し、適切に対応することは、人道的配慮にとどまらず、経営的観点からも重要な危機管理対策であるといえるでしょう。
■ 行政の支援と情報の非共有:企業が知っておくべき現実
行政機関(福祉事務所・DV相談支援センター等)は、相談者の安全確保を最優先に考え、企業など外部機関に本人の情報を一切伝えないケースが大多数です。これは、被害者の身の危険を防ぐために当然の措置であり、企業側も「情報がもらえないこと」を前提とした対応設計が求められます。
特に、被害者が突発的にシェルターに入所した場合、本人との連絡が一切取れなくなることも珍しくありません。このような状況が数週間に及ぶこともあるため、企業側はその可能性を理解し、「無断欠勤」と誤認せず、本人の安全を第一に考えた柔軟な対応体制を構築する必要があります。
■ 企業がとるべき具体的対応(再掲・補足あり)
1. 社内体制の整備
相談窓口の明確化・周知
担当者のDV対応知識の習得
迅速かつ適正な事実確認と記録
2. 被害者への配慮
有給含む特別休暇制度の整備
時差出勤や在宅勤務など柔軟な働き方の許容
DV相談支援センターやシェルターの案内
「突然の音信不通」への事前理解と対応
3. 加害者対応
加害者からの職場接触は一切応じない
保護命令の周知と職場での行動制限の徹底
4. 制度的支援の紹介
児童扶養手当、国民健康保険、住民票秘匿制度など
DV法に基づく保護命令取得による諸制度の活用案内
■ 経営課題としてのDV:人材定着と組織信頼の鍵に
DV被害への対応は、企業の法的・倫理的責任であると同時に、職場全体の安定性と人材確保に関わる経営課題でもあります。信頼できる対応を行う企業は、「従業員を大切にする会社」として評価され、優秀な人材の定着・採用競争力の向上にも直結します。
■ まとめと実務補足
DV被害は企業の業績にも直接影響を及ぼすリスクです。
行政は相談者の安全を守るため、企業側に情報提供はしません。
連絡が取れないことも想定した上で、柔軟で非懲罰的な対応を準備すべきです。
福祉・行政機関との直接連携は難しくても、支援体制や制度情報を社内に整備しておくことで、企業も間接的に被害者支援が可能になります。
本内容は、**弁護士・水谷英夫先生の寄稿記事『ビジネスガイド』(2023年10月号、日本法令)**および、筆者(福祉事務所勤務)による実務経験をもとに構成しています。
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