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中小企業の人材育成、企業だけの視点で大丈夫?――BHRの立場から考える(2025/6/5)

はじめに:厚労省「人材開発政策のたたき台」に見る前向きな提言

2025年6月5日付の労働新聞に、厚生労働省の有識者会議「今後の人材開発政策の在り方に関する研究会」がまとめた「報告書のたたき台」に関する記事が掲載されました。

この記事では、中小企業における人材開発の課題と、今後の方向性について非常に重要な示唆がなされています。特に注目すべきは、複数企業や地域による「共同・共有化」の視点を持った人材育成の仕組みづくりの提言です。



中小企業の人材育成には「共同・共有」が不可欠

記事によれば、中小企業では人的・物的リソースが限られており、社内だけでの人材育成(特にOff-JTや計画的なOJT)が難しいのが実情です。そこで、複数企業・地域・産業単位で人材を育てる仕組み、すなわち「共同・共有化」の必要性が強調されています。

また、企業の経営方針に基づいた人材育成計画の策定支援として、専門家による伴走型支援の重要性も提起されており、これは実務家としても非常に共感できる内容です。



気になる点――「企業のための人材育成」だけでよいのか?

しかし、この記事を読んでひとつだけ、強く気になる点がありました。

それは、「人材育成が企業目線に偏っているのではないか?」という懸念です。

記事全体の構成を見ると、「企業がどう成長するか」「生産性をどう上げるか」といった視点が中心であり、「働く人の尊厳」や「人生の充実」といった**ディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)**の視点がやや薄いように感じられるのです。



BHR(ビジネスと人権)推進社労士の視点から見た「人材育成」

BHRの基本理念は、「企業活動のあらゆるプロセスにおいて人権を尊重すること」です。

人材開発もそのプロセスの一つであり、単に企業にとって「役立つ人材を育てる」ことだけではなく、働く人自身の人生やキャリア、価値観に寄り添う支援であるべきだと私は考えています。

人材育成を通じて、働く人が「社会とつながり、自分の可能性を広げる」「安心して学び直し、次のステージに進むことができる」。
そんな仕組みがあってこそ、真に人権尊重型の人材開発政策になるのではないでしょうか。



企業のため“だけ”ではなく、「人のため」に

私はBHR推進社労士として、企業と労働者の両方に伴走する立場にあります。だからこそ、人材開発が企業の都合のみに基づいて進められてしまうことに、危機感を覚えるのです。

企業が成長するために人を育てる――これは確かに重要です。
しかしそれと同時に、人が育つからこそ企業も、そして社会も発展するという視点が、もっと重視されてよいのではないでしょうか。



最後に:今こそ「ディーセント・ワーク」の視点を政策に

このたたき台が最終報告としてまとめられ、今夏に労働政策審議会に提出されるとのことですが、ぜひその中にディーセント・ワークと人権尊重の視点が明確に盛り込まれることを期待しています。

そして私たち社労士が、単なる制度の解説者ではなく、「人と企業をともに支える現場の伴走者」として、その実装支援に真剣に取り組むことが、これからの社会に求められていると強く感じます。

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