警備業の死亡災害多発に見る高齢労働者への配慮──BHR視点から考える安全対策のあり方(2025/6/11)
東京都新宿労働基準監督署(坂本直己署長)は、警備業における死亡災害の多発を受け、監督指導を強化する方針を示しました。昨年同署管内で発生した3件の死亡災害はすべて警備業に関するもので、被災者はいずれも50歳以上の高齢の警備員でした。事故の原因は、車両誘導中の交通事故、階段からの墜落、飛来物との激突などです。
この状況を重く見た労基署は、業界団体を通じた啓発や個別指導を行うとともに、労災防止のためのリーフレットを作成。具体的には、以下のような取り組みが挙げられています:
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工事用車両の運転範囲や死角への立ち入り防止に関する教育
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警備・作業計画の策定と事前周知
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建設用車両の特性理解の徹底
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高齢者への転倒防止策としての準備体操の推奨
建設現場で働く警備員は高齢層が多く、今後は一層の安全確保が求められています。
【BHR推進社労士としての視点】
一人ひとりに配慮した安全対策こそが「人権尊重」
ビジネスと人権(BHR)の観点から見たとき、今回の取り組みは重要な第一歩ですが、さらに踏み込んだ対策が求められます。高齢労働者は、加齢により次のような特性を持つことが一般的です:
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視力の低下(白内障・緑内障などによる見えにくさ)
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聴力の衰え(注意喚起や指示の聞き取り困難)
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反射神経や判断力の低下
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体力・柔軟性の低下による転倒・疲労リスクの増加
これらを考慮したうえで、単に「全体への一律教育」ではなく、個々の状態や能力に応じた配慮が不可欠です。たとえば、以下のような取り組みが考えられます:
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高齢者向けの体の使い方・動作のコツを含む実践的な安全教育
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大きく、見やすく、聞き取りやすい指示や標識の活用
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インカムや光信号など聴力・視力の補完機器の導入
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警備配置や業務内容のマッチングによる過度な負担の軽減
「一人ひとりをよく見る」という姿勢は、まさに人権尊重の核心です。企業は、単に「働かせる」だけでなく、「どう働くか」「どう安全を守るか」まで責任を負うべき時代に来ています。
【まとめ】
高齢者の労働災害を防ぐためには、年齢に伴う身体的変化を前提とした、安全で無理のない業務設計が欠かせません。今回の新宿労基署の取り組みが、表面的な対策にとどまらず、働く人の尊厳を守るBHRの実践事例となることを期待しています。
※この記事は、「ビジネスと人権(BHR)」の考え方をもとに、社会保険労務士としての個人的見解を述べたものです。企業の安全衛生ご担当者、経営層の方々のご参考になれば幸いです。
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