高齢労働者の労災と年齢差別――ビジネスと人権(BHR)社労士の視点から考える(2025/6/16)
厚生労働省が公表した「令和6年の労働災害発生状況」によれば、休業4日以上の労災死傷者数が 4年連続で増加、特に60歳以上の労働者の死傷者数が初めて3割に達しました。高齢労働者の安全確保と労災防止が喫緊の課題であることが、あらためて浮き彫りになったと言えるでしょう。
📌 企業が直面する現実と苦悩
現場では、例えば次のような事例があります。
62歳男性リフトマン(勤続15年以上)
加齢によるものか、片足に痺れが出て、少しふらつくようになりました。企業は「労災リスクが高まる」として退職を勧めました。
その後、再就職先を探すも半年以上見つからず、数十社に応募しても不採用が続いています。
60歳以上ともなれば、何らかの病気を抱えていても不思議ではありません。誰も好き好んで病気やケガをしたいわけではありません。病気や軽い身体の衰えがあるからといって、「はい、退職ですね」と簡単に線を引かれてしまうことに、当事者は本当に納得できるのでしょうか?
ほんの少し、企業が 配慮 をしてくれたなら、こうしたベテランの高齢労働者は、まだまだ企業に貢献できるのではないでしょうか?
退職を勧める前に、 企業側の工夫や配慮の余地がどれだけあるのか――ここがビジネスと人権の視点で今、真剣に問われています。
💡 BHR(ビジネスと人権)の視点で考えるべきこと
1️⃣ 年齢や病気を理由にした一律的な排除は人権リスク
日本の法律や国際ガイドライン(国連「ビジネスと人権に関する指導原則」)は、年齢・健康状態を理由とする不当な差別を禁じています。「高齢だから」「少し動作が鈍いから」という理由だけで退職を迫るのは、BHRの原則に反する可能性があります。
2️⃣ 高齢者・病気持ち労働者への合理的配慮
企業は退職勧奨の前に、以下のような配慮を検討すべきです。
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作業環境の調整
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業務内容の見直し
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補助器具・補助機械の活用
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勤務形態の柔軟化(時短・分業)
3️⃣ 年齢差別を克服する企業の姿勢が問われる
年齢差別が現実としてあることを認めた上で、それを乗り越える取り組みが企業の社会的責任です。高齢者は少子高齢化社会でますます貴重な労働力になるはずです。
🤖 AI・テクノロジーの可能性
AIやデジタル技術の力を借りれば、次のような解決策が考えられます。
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AIによる職務適性分析・再配置
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転倒・ふらつきリスクのリアルタイムモニタリング
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作業補助ロボットの導入
こうした技術の導入は、高齢者が安心して働ける環境を作ると同時に、企業の持続可能性を支えます。
🌍 結びに
年齢や健康状態の変化は誰にでも訪れるものです。それを理由に職を奪うのではなく、どうすれば「まだまだ企業に貢献できる環境」を作れるか。
それこそがビジネスと人権(BHR)の視点で企業に求められている姿勢ではないでしょうか。
皆さんの職場では、こうした視点が十分に活かされているでしょうか?
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