【ビジネスと人権】技能実習制度から育成就労制度へ ――何がどう変わる?その背景とポイントをやさしく解説 外国人労働者と人権・第1回(2025/6/25)
🌿はじめに:制度はどう変わるの?その背景をやさしく解説
「育成就労制度って何がどう変わるの?」
そんな疑問をお持ちの監理団体や外国人雇用企業の皆さんも多いのではないでしょうか。
この記事では、2027年から始まる新制度「育成就労制度」の背景と基本的な変更点を、
“ビジネスと人権(BHR)”の視点からやさしく解説します。
制度を「なんとなくこなす」のではなく、
**自団体・自社の成長や信頼向上にどう活かせるか?**という視点で、ぜひご覧ください。
技能実習制度の限界と見直しの動き
これまで30年以上にわたり続いてきた「技能実習制度」。
制度の目的は「国際貢献」「技能移転」とされていましたが、実際には人手不足を補う制度として運用されてきました。
その過程で、次のような問題が多数指摘されてきました:
- 長時間労働や低賃金
- ハラスメントや暴力
- 労災の隠蔽、通報できない環境
- パスポートの一時預かり、退職や帰国の強要
こうした問題は国内だけでなく、国際的にも批判の対象となり、
「現代の奴隷制度」といった厳しい表現で非難されることもありました。
この反省から、新たな制度の検討が進められたのです。
育成就労制度とは?その背景と考え方
2023年、有識者会議の報告をもとに決定された「育成就労制度」は、2027年をめどに本格的にスタートします。
この制度は、単なる名称変更ではなく、“人権を尊重した人材育成”を制度の中心に据えた改革です。
主なポイントは次のとおりです:
- 就労先の変更(転籍)を一定の条件下で認める
- 監理団体は「監理支援機関」に再編され、外部監査人の設置が義務化
- 人権侵害防止の省令への明記
つまり、外国人労働者をただ受け入れるだけでなく、
“安心して育ち、働ける環境をつくる”ことが求められる制度に変わるということです。
監理団体の役割も大きく変わる
これまでの監理団体の役割は、技能実習生が制度を逸脱しないよう監視する、いわば“制度の番人”的な立場でした。
しかし育成就労制度では、「人権配慮」や「労働環境の改善支援」こそが中心的な役割となります。
- 就労現場での不当な扱いを把握し、是正に向けた働きかけをする
- 企業が人権リスクに気づき、改善できるように伴走する
- 外部監査人や相談窓口と連携し、透明性を確保する
これからの監理支援機関には、**単なる制度管理者ではなく「人権の視点を持つ専門支援者」**としての機能が求められます。
ビジネスと人権(BHR)と制度の接点
「ビジネスと人権(BHR)」とは、国連が提唱する国際的な人権原則のこと。
日本政府も「行動計画(NAP)」を策定し、企業に対して人権尊重の取組みを求めています。
育成就労制度は、まさにその流れの一環であり、
監理支援機関や受入企業にとっては、“人権デューデリジェンス”の実践現場ともいえるでしょう。
BHR推進社労士からのひとこと
制度の本質は、「使いやすさ」ではなく「使い方」にあります。
外国人労働者のための制度であると同時に、日本の社会や企業が“人権リスクとどう向き合うか”を試される制度でもあります。
「制度対応」から一歩踏み込んで、
“制度を活かす視点”で未来を描いていきましょう。
次回予告
次回は「育成就労制度の目的と背景を読み解く ――制度が生まれた理由を知る」
人材不足対策ではない、新制度の真の狙いについて解説します。
✍️この記事を書いた人
烏脇 直俊(からすわき なおとし)
BHR(ビジネスと人権)推進社労士 / 外国人技能実習制度 外部監査人 / 行政書士(有資格・未登録)
外国人技能実習制度・育成就労制度を「人権の観点」から支援することを専門とする社会保険労務士。
監理団体・企業・自治体と連携し、制度対応から実務改善、職場の人権環境整備まで幅広くサポート。
「制度を“使う”だけでなく、“活かす”時代へ。」
制度改革に前向きに取り組みたい方は、どうぞお気軽にご相談ください。
📩 無料相談・お問い合わせフォームはこちら
≪ 【ビジネスと人権】育成就労制度の目的と背景を読み解く ――監理団体が知っておきたい「人権尊重」の本質とは? 外国人労働者と人権・第2回 | 若者の死因1位は自殺──ビジネスと人権の視点から企業に求められる責任とは ≫