【ビジネスと人権】入国後講習は“人権尊重の入口” ――社会保障の理解が、未来の自立につながる 外国人労働者と人権・第7回(2025/6/30)
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育成就労制度では、入国後講習の実施が制度運用の入口となります。
これは単なる制度上の形式ではなく、外国人が日本で尊厳をもって働き、安心して暮らすための大切な第一歩です。
特に、社会保障制度の正しい理解は、外国人の将来に直結します。
本記事では、講習内容の中でも軽視されがちな社会保障制度に焦点をあて、外国人労働者が不利益を被らぬよう、社会保険労務士の視点からその意義と課題を整理します。
📌入国後講習の概要
技能実習制度と同様に、育成就労制度でも入国後講習の実施は義務です。
目的は以下のとおり:
- 日本の労働慣行や安全衛生の理解
- 基本的な生活習慣の習得
- 日本語の基礎学習
- 労働者の権利義務の周知
- 外部相談窓口の案内
これらに加え、社会保障制度の説明は欠かせない内容です。
👨⚕️ 社会保障制度の説明が必要な理由
▷ 健康保険と国民健康保険の違い
- 外国人労働者は原則、会社の健康保険(協会けんぽや組合健保)に加入します。
- 退職後などには国民健康保険(国保)への切り替えが義務となります。
加入を怠ると…
医療費の10割(全額自己負担)となり、数十万円~数百万円の請求が発生するリスクがあります。
▷ 傷病手当金の制度
健康保険には、病気やケガで働けない期間中に傷病手当金(原則1年6か月支給)が支給されます。
これは生活のセーフティネットであり、講習でしっかり説明されるべき制度です。
🧓 厚生年金・国民年金とキャリア支援
▷ 厚生年金に10年以上加入すると…
- 将来、老齢厚生年金の支給資格が発生します。
- 一方で、脱退一時金は申請できなくなります(10年未満まで)。
つまり、キャリアの途中で帰国するか、長期的に日本で生活するかの重要な判断時期が存在します。
▷ 障害年金の対象になることも
- 障害年金は厚生年金・国民年金に加入していることが前提です。
- 加入していなければ、事故や病気で障害を負っても年金は支給されません。
▷ 国民年金・国保の加入義務
- 3ヶ月以上の適法な在留資格を持つ外国人には、国民年金・国保の加入義務があります。
- 仕事を辞めた後も、その義務は続きます。
加入を怠ると、障害年金の受給ができなくなる、医療費が高額になるなどの不利益が生じるだけでなく、生活保護等の公的扶助制度を利用した場合、社会的な批判の対象になりやすい現実もあります。
🎯 社労士としての使命:「将来の自立を支えること」
私たち社会保険労務士の役割は、企業や制度のために手続を代行することだけではありません。
外国人労働者が将来にわたって日本で自立して生きていくための支援者であることも、もう一つの重要な使命です。
- 制度の説明を母国語やわかりやすい言葉で行う
- キャリア形成の節目を一緒に考える
- 加入の有無が将来にどう影響するかを正確に伝える
こうした専門的支援こそが、**「人権を守る制度運用」**に直結します。
✍️この記事を書いた人
烏脇 直俊(からすわき なおとし)
BHR(ビジネスと人権)推進社労士 / 外部監査人 / 行政書士(有資格・未登録)
外国人技能実習制度・育成就労制度の現場から、人権の観点で制度運用を支援中。
社会保障の実務と人権課題を結びつける専門家として活動しています。
「入国後講習は、“制度の入り口”ではなく、“人生の入口”でもあると私は考えています。」
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