【ビジネスと人権】住環境の整備は“制度定着”のカギ ――「人は家に帰って人間になる」という当たり前のこと 外国人労働者と人権・第8回(2025/7/1)
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どれほど制度や職場環境が整っていても、住まいが貧弱であれば人は定着しません。
育成就労制度においても、「住環境の整備」は明確に義務として位置づけられています。
本記事では、制度上の根拠と人権配慮の観点から、住居に関する整備の重要性を掘り下げます。
🏠制度上の根拠:住環境整備は“任意”ではない
育成就労制度では、住環境の整備は法的にも制度運用上も義務とされています。
📘【法的根拠1】
育成就労計画の認定要件(第九条第5号)において、
「育成就労を行わせる体制及び事業所の設備が主務省令で定める基準に適合していること」と規定されています。
この「設備」には、外国人が生活する住居(宿舎)も含まれると解されており、企業側には適切な住環境の整備義務が課されることになります。
📘【制度設計の方向性】
また、制度設計上も「外国人の適正な受入れに必要な方策」として、
生活文化研修や相談体制の整備、連絡先の把握等と並んで住環境整備も想定されています。
🔍現場で起こっている問題例
❌ 6畳一間に2~3人を詰め込む
❌ シャワー・トイレが共同で男女共用
❌ 高額な寮費を天引き、実質的に「借金労働化」
こうした状況は、技能実習制度でも繰り返されてきた人権侵害の温床であり、
育成就労制度では制度上排除される方向で厳格に運用される見通しです。
🌐BHRの視点:「暮らす場所」は人権そのもの
「人は職場で歯車になっても、家に帰って“人間”になる」。
これはILOや国際人権基準でも繰り返し語られる基本原則です。
住まいの質が悪いと:
- 精神的ストレスが蓄積
- 職場でのトラブルが増える
- 周囲の日本人との関係も悪化
一方で、落ち着いた住環境は、「生活の安定」→「職場の定着」へとつながります。
🧭地域とのつながりも企業の責任
住環境の整備には、単なる住宅の提供だけでなく、地域との関係構築も含まれます。
- 地域イベントや自治会への参加支援
- 通訳支援・同行などによる安心の確保
- 日本の生活文化へのソフトな橋渡し
ほんの少し、育成就労外国人の気持ちや立場に立ってみるだけで理解できるはずです。
「想いやり」のない企業に、この制度の担い手としての資格はありません。
これは厳しいようでいて、国際社会から求められる最低限の基準でもあるのです。
BHR推進社労士からのひとこと
制度運用の現場では、「人材が定着しない」という声が後を絶ちません。
その原因が職場ではなく“住まい”にあるというケースは少なくありません。
人が安心して眠れる場所がなければ、希望も未来も語れません。
住環境の整備は、“制度の成功”を支える第一条件なのです。
✍️この記事を書いた人
烏脇 直俊(からすわき なおとし)
BHR(ビジネスと人権)推進社労士 / 外部監査人 / 行政書士(有資格・未登録)
現場から見た「制度の実効性」と「人権のリアリティ」を伝える専門家。
「職場だけでなく“住まい”を見る――それが本当の受入れ支援です。」
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