【ビジネスと人権】苦情相談制度と第三者救済 ――相談が“安心”につながる社会的責任へ 外国人労働者と人権・第9回(2025/7/3)
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育成就労制度では、これまでの技能実習制度の反省を踏まえ、苦情対応体制の整備が義務化されます。
しかし単に「相談窓口を設ける」だけでは、人権の実効性は確保できません。
本記事では、制度上の根拠、現場での課題、そして「相談が安心につながる制度」に求められる要件を、BHR推進社労士の視点から解説します。
❗なぜ苦情制度の強化が求められるのか?
技能実習制度では、「相談窓口はあるが機能していない」「相談しても改善されない」という声が多く聞かれました。
その背景には以下のような構造的問題がありました:
- 苦情受付が企業内部にしか存在しない
- 通訳が不在で、意思を伝えられない
- 相談後に解雇・帰国させられるなどの報復リスク
これらは制度の信頼性を損ない、国際的な人権批判の一因ともなりました。
📘育成就労制度における制度設計
育成就労制度では、苦情対応は明確な義務です。
【制度上の根拠】
受入れ機関において、苦情相談体制の確保や外部相談窓口の明示が、育成就労計画の認定要件となる予定です。
また、苦情対応体制は外部監査人のチェック対象にもなり、第三者による監視・改善機能の導入が制度設計上の特徴です。
🔍人権デューデリジェンス(人権DD)との関係
国連「ビジネスと人権指導原則」では、企業が人権リスクを把握・防止・軽減する責任を負います。
その実践手段である人権デューデリジェンス(人権DD)においても、「救済へのアクセス」こそ最も重視されている要素です。
❗ 企業の相談制度が形式的で、実際には声が届かない――これは国際的な人権監査で最も多く指摘される課題のひとつです。
育成就労制度の相談制度は、まさにこの国際基準に照らして設計されるべきであり、
相談が「安心」と「実効性」につながる制度こそが社会的責任を果たすあり方といえます。
🧭BHR視点:「声を上げるだけでなく、守られる制度へ」
BHR(ビジネスと人権)の視点では、以下の4つの柱が重要です:
要素 | 内容 |
アクセシビリティ | 通訳対応、匿名性、24時間受付など |
中立性 | 利害関係のない第三者による対応 |
実効性 | 調査・是正・再発防止策の明示と実施 |
不利益取扱いの禁止 | 通報者保護の徹底、報復リスクの排除 |
🌍制度を「国際的に通用する仕組み」に
外国人労働者の信頼を得るには、「制度がある」ことよりも、その制度が機能しているかどうかが問われます。
- 苦情対応マニュアルの整備
- 多言語による運用体制
- 実績の見える化と第三者評価
- 弁護士・社労士など外部専門職との連携
これらがそろってこそ、「相談が安心につながる社会的責任」を企業・制度側が果たしているといえます。
BHR推進社労士からのひとこと
制度は、その声が「守られること」につながるものでなければなりません。
苦情対応体制は、“制度が本当に人を守るのか”を可視化する試金石です。
私たち社労士も、相談体制の構築や外部監査支援を通じて、その一翼を担っていきたいと考えています。
✍️この記事を書いた人
烏脇 直俊(からすわき なおとし)
BHR(ビジネスと人権)推進社労士 / 外部監査人 / 行政書士(有資格・未登録)
制度設計から現場運用まで、人権配慮と実務の両立を支援する専門職。
「声を届け、かたちにする」実効的仕組みづくりを実践中。
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