【ビジネスと人権】安全で健康な労働条件は「最低限」ではなく「国際基準」 ――事故のない職場に、人権の根幹がある 外国人労働者と人権・第11回(2025/7/5)
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職場の安全と健康は、単なる労働環境の話ではありません。
それは働く人の命と尊厳にかかわる、人権そのものです。
育成就労制度では、「安全で健康な労働条件」が一層強く重視され、
ILO中核的労働基準にも位置づけられた、国際レベルの義務になります。
本記事では、その法的背景や制度の要件、そして現場が実行すべき行動を整理します。
📘国際基準:ILOにおける労働安全衛生の位置付け
2022年、ILOは「中核的労働基準」に
「安全で健康な労働条件(Safe and Healthy Working Conditions)」を新たに追加。
これにより、ILO中核条約は5分野10条約体制となりました。
📌 安全衛生は、労働者にとって「権利」と認定されたのです。
日本政府もこの基準を受けて国内規制の整備・指導強化を図っており、
育成就労制度にその枠組みが反映されつつあります。
🚨愛媛・今治造船のケース:2,134人の実習計画一括取り消し
2025年3月、愛媛県今治造船が2,134人分の技能実習計画認定を取り消されるという大規模な処分が行われました。
- 理由:クレーンの定期自主検査が未実施で法令違反だったためasahi.com。
- この処分は、労働安全衛生法違反の認定と裁判の罰金確定に基づき実施されました。
- 実習生はクレーンに関与していなかったにもかかわらず、職場全体の安全管理体制の不備が厳しく問われた形ですasahi.com。
この事例は、単なる法令違反を超えた「職場全体の安全文化の欠如」が処分の対象とされたものであり、
日本政府が国際基準への強い姿勢を国内外に示したものであると理解できます。
📌育成就労制度における安全衛生義務
今後の制度設計では、以下が認定・許可の要件となる見込みです:
- 労働安全衛生教育の義務化
- リスクマネジメントの多言語対応
- 防護具の適切な支給・使用指導
- 安全衛生管理体制の整備と記録
これらは、育成就労計画の認定条件となり、外部監査人の調査対象になります。
🧭BHR視点:「事故ゼロ」は人権の証明
BHR(ビジネスと人権)において、安全配慮は最低限のスタートラインです。
外国人労働者にとって、次の課題がしばしば無視されがちです:
- 指示が伝わっていない
- 道具の使い方が教えられていない
- 危険を察知できない言語環境
これらを放置することは、人権侵害の一形態。
つまり、安全な職場づくりは制度の信頼性そのものにつながります。
🧰現場で今すぐできる安全対策
対策 | 説明 |
安全教育 | 多言語・イラスト付きの教材で初期研修を実施 |
定期点検 | 作業設備の定期チェックと記録の保持 |
通報ルート | 多言語対応の「危険報告窓口」を整備 |
翻訳支援 | アプリによる現場指示を多言語化(例・スマホの多言語翻訳) |
BHR推進社労士からのひとこと
「安全を軽視する職場に、未来はありません。」
事故が起きてからでは遅いため、システム的・文化的対策が求められます。
そして、人権を守る制度は、実効性ある安全衛生体制とセットであるべきです。
私たち専門職は、その文化を組織内部にも根付かせる支援を果たしたいと考えます。
✍️この記事を書いた人
烏脇 直俊(からすわき なおとし)
BHR(ビジネスと人権)推進社労士 / 外国人技能実習制度 外部監査人 / 行政書士(有資格・未登録)
外国人技能実習制度・育成就労制度を「人権の観点」から支援することを専門とする社会保険労務士。
監理団体・企業・自治体と連携し、制度対応から実務改善、職場の人権環境整備まで幅広くサポート。
「制度を“使う”だけでなく、“活かす”時代へ。」
制度改革に前向きに取り組みたい方は、どうぞお気軽にご相談ください。
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