【ビジネスと人権】ハラスメント防止は“文化の尊重”から始まる ――文化の違いが“無理解”にならないように 外国人労働者と人権・第12回(2025/7/6)
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「冗談のつもりだった」「注意しただけだ」――
こうした言い分が、ハラスメントの温床になることは日本国内でも繰り返されてきました。
育成就労制度では、文化や価値観の違いによって外国人がハラスメントを受けるリスクがあることを前提に、
公私の区別を明確にし、職場の規律と人権の両立をどう図るかが問われます。
🔍外国人労働者とハラスメントの実態
技能実習制度下でも、次のような事例が問題となってきました:
- 異文化理解の欠如からくる“排他的指導”
- 私生活への過干渉(門限・交友関係など)
- 男女関係への偏見や不当な管理
- “かわいがり”と称した叱責・暴力
これらはしばしば「愛情のつもり」「注意指導」として行われ、
外国人が声を上げられないまま深刻な精神的被害を受けるケースが少なくありません。
❗ハラスメントの原因にある“コミュニケーション不足”
ハラスメントの背景には、コミュニケーション不足や、上司からの一方通行の関わり方が大きく関係しています。
日本人同士であっても、意思疎通が不十分で誤解が生じることは珍しくありません。
ましてや、言葉に不慣れな外国人労働者との間では、そのリスクはさらに高まります。
📌責任ある立場の人こそ、「伝えたつもり」「分かっているはず」と思い込まず、丁寧な対話と確認を重ねる姿勢が求められます。
📘育成就労制度の方向性:公私の線引きと相談体制の義務化
育成就労制度では、以下のような方向性が明確に打ち出されています:
- 適切な労働環境の確保(ハラスメントの防止)
- 私生活への不当な干渉の禁止
- 外国人が安心して相談できる体制の整備
これらは育成就労計画の認定要件にもなり得る重要な事項です。
📌 「ハラスメントをしない」ではなく、
“されないように配慮する”ことが制度の一部になるのです。
🧭BHRの視点:文化を軽視する職場は、制度の信頼を損なう
BHR(ビジネスと人権)の観点では、
労働者の尊厳を守るには文化的背景を理解した対応が不可欠です。
日本の常識 | 外国人から見た非常識の一例 |
同期の前で叱責する | 公の場で恥をかかせる侮辱行為 |
私生活に干渉する | 自立性を否定される強権 |
ボディタッチ | セクハラ・人権侵害 |
休憩中も私語厳禁 | 疑問を聞けない抑圧的環境 |
こうした「職場の慣習」が、文化的圧力=ハラスメントに変わる可能性があるのです。
🧰ハラスメントを防ぐ仕組みづくり
対策 | 説明 |
ハラスメント研修 | 異文化対応を含めた教育を全階層に実施 |
コンプライアンス規程 | ハラスメントの定義と対応を明文化 |
外部相談窓口の設置 | 利害関係のない社労士や弁護士との連携 |
評価制度と連動 | 管理職の対応を評価項目に含める |
BHR推進社労士からのひとこと
私たち社労士が現場でよく聞くのは、
「叱ったら辞めてしまった」「育てるつもりだった」という声です。
ですが、制度が変わる今、問われるのは
“育てる”前に“守れているか”です。
異文化の理解と公私の線引き、そして対話の意識と責任の自覚――
これらが揃ってこそ、初めて人が育つ環境になります。
✍️この記事を書いた人
烏脇 直俊(からすわき なおとし)
BHR(ビジネスと人権)推進社労士 / 外国人技能実習制度 外部監査人 / 行政書士(有資格・未登録)
外国人技能実習制度・育成就労制度を「人権の観点」から支援することを専門とする社会保険労務士。
監理団体・企業・自治体と連携し、制度対応から実務改善、職場の人権環境整備まで幅広くサポート。
「制度を“使う”だけでなく、“活かす”時代へ。」
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