【ビジネスと人権】就業規則は“翻訳”されて初めて効力を持つ ――権利も義務も「わかる言葉」で伝える責任 外国人労働者と人権・第14回(2025/7/8)
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「ちゃんと書いてあるじゃないか」
「就業規則に明記されているから問題ない」――
その言葉、本当に外国人労働者に伝わっていますか?
育成就労制度において、就業規則の内容を理解できるかどうかは「人権に直結する問題」です。
今回は、就業規則の外国語化と説明責任をBHR推進社労士の視点から整理します。
📘制度上の要請:多言語対応と説明義務
育成就労制度では、労働契約書や就業規則について、以下の対応が制度化される見込みです:
- 母国語での説明の実施(口頭+書面)
- 重要項目は翻訳版の提示を義務化
- 説明記録の保管と外部監査対応が求められる
この措置により、「理解しないまま署名させられる」リスクを排除します。
📚多言語化に関する制度的根拠
法律自体に直接の翻訳義務はないものの、厚労省の「外国人雇用管理指針」では、
「事業主は、主要な労働条件について、当該外国人労働者が理解できるよう書面を交付し、分かりやすい説明を行うよう努めるべき」
また、就業規則の周知義務(労基法106条)について、専門家は
「外国人が理解できない日本語のみの規則では“周知”とは認められず、懲戒処分などは無効とされる可能性がある」
と指摘しています。
❗トラブル事例:日本語だけの規則で生じた理解不足
技能実習制度では、就業規則が日本語のみで提供されたために誤理解やトラブルが発生した実例があります:
ある企業で、実習生が規則に沿わず30分遅刻を繰り返していたが、
「就業規則は日本語だけで示されたままだったため、実習生は出勤時間を理解していなかった」
という原因が判明し、母国語併記で提示したことにより問題が解消された事例があります。
🧭BHR的視点:「説明責任」は企業の最低限の義務
BHRの枠組みでは、
労働者が自分の権利と義務を理解して実行できることが前提です。
観点 | 求められる対応 |
権利の可視化 | 労働時間・賃金・休暇・苦情手続きの翻訳 |
義務の理解 | 懲戒規定など「ここを守らないと何が起こるか」を明示 |
実効性 | 通訳、図解、動画教材など多様な方法で説明 |
記録管理 | 現場説明と個人理解を確認する記録を整備 |
🧰社労士が支援できるポイント
- 就業規則の多言語翻訳と用語解説
- 新人研修での多言語口頭説明の設計・実施
- イラスト入りハンドブックや e‑ラーニング教材の導入支援
- 外部監査向けの説明記録整備(署名・同意書)
これらは、中小企業でも実行可能かつ制度的価値の高い支援策です。
BHR推進社労士からのひとこと
「言ってある」ではなく、「伝わったか」がすべてです。
そして、それを担保する記録と体制こそが“人権配慮の証明”です。
外国人に「わかる言葉」で伝えることは、
翻訳ではなく、人と制度の信頼を築くための行為であるとご理解ください。
✍️この記事を書いた人
烏脇 直俊(からすわき なおとし)
BHR(ビジネスと人権)推進社労士 / 外部監査人 / 行政書士(有資格・未登録)
就業規則の翻訳整備から監査対応まで、制度構築と現場支援の両輪で活動中。
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