【ビジネスと人権】「働きすぎない」ことが、人権の出発点 ――外国人労働者も、公正で安全な労働環境のもとで働くべき 外国人労働者と人権・第15回(2025/7/9)
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「週6勤務は当たり前」「残業は努力の証だ」――
こうした考え方が、無意識のうちに外国人労働者にも押し付けられる現実があります。
育成就労制度では、労働時間や休息の管理が人権に直結する重要項目として厳しく問われます。
本記事では、長時間労働や休息不足がもたらす問題と、国際的な労働基準(ILO中核的労働基準)に基づいた、労働者が公正かつ安全に働ける環境作りの重要性を、BHR(ビジネスと人権)の視点から整理します。
📘制度の基本:36協定と法定限度
日本の労働法では、1日8時間・週40時間が法定労働時間です。
これを超えて働かせる場合、労使協定(36協定)の締結と届出が必要です。
加えて、以下の上限が定められています:
区分 | 上限 |
通常 | 月45時間、年360時間 |
特別条項付 | 年720時間/月100時間未満(複数月平均80時間以内) |
休息 | 勤務間インターバル制度の導入努力義務(労働時間等設定改善法第2条の2) |
(※勤務間インターバル制度は現行法上「努力義務」とされ、法的な罰則はありませんが、企業にとっては重要な改善目標です。)
❗技能実習制度での失敗例:過度な労働が招いた健康リスク
これまでの技能実習制度では、次のような事例が問題となってきました:
- 毎日長時間の残業を恒常的に課せられた結果、健康を害し帰国を余儀なくされた事例
- 休日が不十分で、実際には休息が取れず慢性的な疲労・ストレスが蓄積された例
- 宿舎での待機時間も実質的な労働時間に含まれるが、未払いとなったケース
このような状況は、労働者の健康を損ない、ひいては強制労働や経済的搾取とみなされるリスクがあるため、改善が強く求められています。
🧭BHRの視点:公正で安全な労働環境は基本的人権である
国連のビジネスと人権指導原則では、労働者が自らの権利に実際にアクセスできることが前提となっています。
すなわち、過剰な労働や休息不足は、「働かせすぎ」による健康被害や精神的苦痛を引き起こし、公正な労働環境を損なう行為です。
- 労働時間の透明な管理
- 打刻やシフト管理の厳格な実施
- 休息時間の実効性の確保
- 宿舎待機時間の正しい扱い
これらを通じ、「誰もが安心して働ける環境」を築くことが求められます。
🧰現場で実行すべきこと
項目 | 対策例 |
労働時間の説明 | 就業前講習や定期面談で、労働時間と休息ルールを母国語で丁寧に説明 |
実態の把握 | タイムカード、シフト表、日報などを活用し、実態と帳簿を照合 |
インターバル導入 | 終業と次の始業の間に8~11時間以上の休息を確保するよう努める(努力義務) |
健康管理 | 定期の健康チェック、産業医による面談を実施し、早期の健康問題に対応 |
💬「感謝して働け」ではなく「安心して働ける」環境を
外国人労働者には、日本で働くこと自体が大きなチャンスです。しかし、
不適正な労働環境では、労働者が健康を害し、最終的には強制労働に近い状態になりかねません。
企業は「働かせる」だけでなく、「安心して、健康的に働ける環境」を提供する責任があります。
BHR推進社労士からのひとこと
制度を守るだけでは、働く人の尊厳までは守れません。
私たち社労士は、数字の裏にある実際の生活や健康を守るため、企業が「安心して働ける」環境づくりを実現する支援を心がけています。
✍️この記事を書いた人
烏脇 直俊(からすわき なおとし)
BHR(ビジネスと人権)推進社労士 / 外国人技能実習制度 外部監査人 / 行政書士(有資格・未登録)
外国人技能実習制度・育成就労制度を「人権の観点」から支援することを専門とする社会保険労務士。
監理団体・企業・自治体と連携し、制度対応から実務改善、職場の人権環境整備まで幅広くサポート。
「制度を“使う”だけでなく、“活かす”時代へ。」
制度改革に前向きに取り組みたい方は、どうぞお気軽にご相談ください。
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