【ビジネスと人権】賃金は“労働の対価”であり、“経済的尊厳”の源 ――適正な支払いと、安心できる送金環境の整備を 外国人労働者と人権・第16回(2025/7/10)
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「ちゃんと支払っているつもりだった」「控除内容は説明している」――
その“つもり”が、外国人労働者の生活を直撃することがあります。
育成就労制度においては、賃金の支払いが適正かつ透明であることが大前提。
さらに、労働者が自らの意思で収入を管理し、家族を支える手段としての送金がスムーズに行える環境を整えることは、尊厳ある生活支援の一環として重要です。
📘制度の基本:賃金支払5原則と控除ルール
労働基準法24条では、賃金の支払について次の原則が定められています:
- 通貨払い(原則現金、例外的に口座振込可)
- 直接払い(労働者本人に)
- 全額払い(法定控除または労使協定に基づく控除のみ合法)
- 毎月1回以上
- 一定期日払い
⚠️控除に関する注意点
寮費・水道光熱費・送迎費などを給与から控除するには:
- 労使協定の締結
- 雇用契約書または就業規則への明示
- 事前説明と本人同意の記録が必要です。
また「懲戒減給」や「罰金」は労基法91条に基づき、厳格な上限・手続きが必要です。
❗技能実習制度での教訓:不透明な控除と通帳管理
以下のようなトラブルが問題となりました:
- 手取り額が大幅に少なく、生活困難に陥る
- 通帳が会社管理となっており、本人が残高や送金状況を把握できない
- 離職時に未払い賃金や違法控除が判明し訴訟へ発展
育成就労制度ではこれらを教訓に、賃金の透明性と本人管理の徹底が求められます。
🧭BHRの視点:賃金は“見える・選べる・使える”ものに
原則 | 内容 |
経済的自由の保障 | 通帳は本人管理、使途も本人の自由に委ねる |
搾取の排除 | 根拠なき控除・一方的な天引きの禁止(協定+同意が必須) |
情報へのアクセス | 賃金明細を母国語で提供、控除項目は図解・内訳提示 |
相談体制の整備 | 控除・未払いへの不満を安心して相談できる仕組みを構築 |
💬特に重要:「手取り見込み額」を入社前に正しく提示すること
実務で特に問題になるのが、額面総額だけを提示して、生活に使える金額が分からないまま入社させてしまうケースです。
📌典型的な問題:
- 月給に「平均残業代込み」で提示している
- 社会保険料・寮費・光熱費などを差し引いた後の金額を提示していない
- 入社後、「聞いていた額と違う」とトラブルになる
✅あるべき対応:
- 月給とは別に、「手取り見込み額(残業なしの場合)」を明示
- 控除項目(例:社会保険・住居費)を一覧で説明
- 入国前・内定時に、母国語での収支シミュレーションを提示
これは「誤解防止」だけでなく、外国人本人が将来設計・仕送り・生活費を考える上で不可欠な情報です。
企業の誠実さが最も問われるポイントの一つでもあります。
💱送金支援は“生活の安定”を支える仕組み
送金は単なる経済行為ではなく、多くの外国人にとっては「家族責任」「教育支援」「生活保障」です。
言語や手続き、金融リテラシーの壁を取り除く支援は、制度を支える補助線となります。
🧰現場で実行すべきこと
項目 | 対策例 |
賃金明細 | 母国語で明細を交付、控除内容も明示 |
手取り額の説明 | 入社前に「手取り見込み額」を明記し、控除項目と根拠を説明 |
通帳管理 | 原則本人が管理、企業預かりは避ける |
送金支援 | アプリ使用支援(Wiseなど)、送金費用の低減努力 |
金融教育 | 契約、保険、税金のしくみを学べる機会を提供 |
BHR推進社労士からのひとこと
「給与の数字」は、生活と未来のすべてに直結します。
制度の信頼性は、手取り額が“正しく伝わっているか”にかかっています。
私たち社労士は、契約前の透明性・契約中の整合性・契約後の納得性――
この3点を支える制度設計を担ってまいります。
✍️この記事を書いた人
烏脇 直俊(からすわき なおとし)
BHR(ビジネスと人権)推進社労士 / 外国人技能実習制度 外部監査人 / 行政書士(有資格・未登録)
外国人技能実習制度・育成就労制度を「人権の観点」から支援することを専門とする社会保険労務士。
監理団体・企業・自治体と連携し、制度対応から実務改善、職場の人権環境整備まで幅広くサポート。
「制度を“使う”だけでなく、“活かす”時代へ。」
制度改革に前向きに取り組みたい方は、どうぞお気軽にご相談ください。
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