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【ビジネスと人権】「声を上げても無駄だった」と言わせないために ――相談が“安心”につながる社会的責任へ  外国人労働者と人権・第17回(2025/7/11)

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制度を整えても、通報しても、誰も助けてくれない――
そんな経験をした労働者は、二度と声を上げることはありません。

育成就労制度では、「相談できる環境」から「相談して安心できる環境」への転換が求められています。
今回は、制度上の義務・国際基準・実務的視点3方向から、相談体制と救済アクセスの重要性を整理します。

 


📘制度的義務:相談窓口は任意ではない

出入国在留管理庁(法務省)の育成就労制度資料では、
以下の整備が**「受入れ機関の体制要件」**として明記されています。

【法務省:育成就労制度に関するQ&A(令和6年版)より】

「育成就労の受入れにあたっては、受入れ機関が外国人が相談できる体制を構築することが求められる。特に、母国語での対応、外部相談機関との接続が必要である」【出入国在留管理庁】

さらに、監査対象として、

が確認される運用が予定されています。

 


技能実習制度の教訓:機能しなかった相談窓口

技能実習制度では、以下のような問題が繰り返されました:

その結果、ハラスメント・労働違反の温床となる事例も多く報告されました。

 


🧭国際基準(UNGPs):救済アクセスは人権尊重の要件

国連「ビジネスと人権に関する指導原則(UNGPs)」では、
企業の人権尊重責任の一環として、以下が定められています:

📌UNGPs 2931条のポイント:

原則        

 要点

アクセス可能性(accessible

言語の壁を超えた、誰でも使える仕組みであること(= 母国語対応が前提)

独立性(independent

企業内ではなく、外部・第三者的な相談機関との接続が必要

透明性(transparent

利用者に処理状況や結果が見えること

救済可能性(remediable)      

実効性のある対応(是正、再発防止)をとれる仕組み

つまり、相談は「開設」ではなく「機能」が問われるということです。


🧰現場で実行すべき体制整備

項目

実践例

多言語相談体制

ベトナム語・インドネシア語・英語等、実際の就労者に即した対応言語を整備

外部相談連携

社労士・弁護士・NPOとの連携体制を構築

通報ルートの多様化

LINEWebフォーム、第三者通報など、非対面チャネルを導入

定期教育

入社時・在職中に「相談しても不利益はない」と繰り返し伝える研修


💬「相談した後に信頼される」仕組みを

企業が制度を用意しても、対応が遅れたり不誠実だったりすれば信頼は一瞬で崩れます。
形式ではなく、「相談して良かった」と感じてもらえる対応こそが、制度への信頼と人権の尊重につながります。

 


BHR推進社労士からのひとこと

「制度はある」ではなく、
「相談してよかった」と言ってもらえる職場を増やしたい。

私たち社労士は、苦情対応の制度設計、母国語対応体制の整備、外部相談窓口との連携など、
安心して働ける環境づくりの裏方として支援を続けてまいります。

 


✍️この記事を書いた人

烏脇 直俊(からすわき なおとし)
BHR
(ビジネスと人権)推進社労士 / 外国人技能実習制度 外部監査人 / 行政書士(有資格・未登録)

外国人技能実習制度・育成就労制度を「人権の観点」から支援することを専門とする社会保険労務士。
監理団体・企業・自治体と連携し、制度対応から実務改善、職場の人権環境整備まで幅広くサポート。

「制度を使うだけでなく、活かす時代へ。」
制度改革に前向きに取り組みたい方は、どうぞお気軽にご相談ください。

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次回予告

18回:育成計画と進捗評価
「育てる責任」は紙だけでなく、実行と記録で示すもの。

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