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【ビジネスと人権】「育てる責任」は、紙の上ではなく行動と記録で示すもの ――育成計画と進捗評価を“人権配慮”の視点で捉える 外国人労働者と人権・第18回(2025/7/12)

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「育成計画は提出した」「ちゃんと仕事を教えている」――
では、どのように育成され、どこまで成長したかをきちんと確認しているでしょうか?

育成就労制度は、外国人労働者の育成とキャリア形成を明確な目的として制度化されています。
今回は、単なる形式にとどまらず、人としての成長を支える仕組みとしての育成計画と進捗評価を、
BHR
(ビジネスと人権)の観点から整理します。

 


📘育成就労制度の構造:育成計画と評価が中核に

育成就労制度では、旧技能実習制度と異なり、
在留資格「育成就労」が単一制度として3年間認められる構造となっています。

制度上、以下のような特徴があります:

このように、制度そのものが「育成達成移行」を前提としたステップ型となっており、
育成計画と進捗評価は制度運用の中核とされています。

 


技能実習制度の実態:育成計画と現場の乖離

技能実習制度では、「育成」の名目に反して、
実際には育成と呼べない運用が各地で発生していたことが、報道・調査等で明らかになっています。

実例1NHK『クローズアップ現代』より(2023年)

「見て覚えろと言われ、仕事を丸投げされた。教育担当は誰かも分からなかった」
──
ベトナム出身の元技能実習生(建設業)

実例2:朝日新聞(2022316日)

3年間、毎日同じ機械で同じ作業だけ。教えてもらったことは一度もなかった」
──
千葉県の金属加工業に従事していた元技能実習生

行政の見解:出入国在留管理庁

「技能実習制度が人材育成制度として機能していないとの国内外からの批判があり、改善のため育成就労制度の創設に至った」
──
『外国人技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議 最終報告書』(2023年)

 


🧭BHRの視点:育成とは「将来への道を開くこと」

BHR(ビジネスと人権)の観点から見た「育成」とは、単なるOJTではありません。

原則

内容

キャリア形成の権利

労働者が職業スキルや知識を習得し、自らの将来を設計できるようになることは、国際人権規約やILO基準において保護される基本的権利です。

成長の可視化

「どこまで成長したか」を本人が自覚できる仕組みが必要

公平性

評価の機会や指導の有無が、日本人と明確に異なる場合は差別と見なされる恐れあり


🧰現場で実行すべきこと

項目

実践例

育成計画

翻訳付きで本人に交付/内容はスキル・時期・到達目標を明記

指導記録

毎日の指導チェックシート、月ごとのレビューとフィードバック

面談制度

通訳同席による月次の1on1面談(教育・生活両面)

達成の証明

スキル証明書、簡易表彰、推薦状などで成長を見える化


💬「育成」はコストではなく信頼への投資

外国人を受け入れるとは、「一時的な労働力として使う」ことではなく、
「成長を支援し、共に働く仲間として信頼関係を築く」ことです。

制度に沿った帳票だけでは不十分であり、
「この人を育てたい」という意志と行動こそが、人権の尊重を形にします。

 


BHR推進社労士からのひとこと

育成就労制度は、「人を育てる制度」である以上、
その育て方評価の方法が問われる制度でもあります。

私たち社労士は、


✍️この記事を書いた人

烏脇 直俊(からすわき なおとし)
BHR
(ビジネスと人権)推進社労士 / 外国人技能実習制度 外部監査人 / 行政書士(有資格・未登録)

外国人技能実習制度・育成就労制度を「人権の観点」から支援することを専門とする社会保険労務士。
監理団体・企業・自治体と連携し、制度対応から実務改善、職場の人権環境整備まで幅広くサポート。

「制度を使うだけでなく、活かす時代へ。」
制度改革に前向きに取り組みたい方は、どうぞお気軽にご相談ください。

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