【ビジネスと人権】支援する力が、制度の信頼を決める ――育成就労制度における「支援機関」の真価とは 外国人労働者と人権・第20回(2025/7/14)
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「支援しています」と言うけれど、
その“支援”は本当に機能していますか?
育成就労制度では、外国人本人・企業・地域を支える「支援機関」が要となります。
本稿では、支援機関の力量が制度の信頼を左右する理由と、求められる実務能力について、現場感覚を踏まえて整理します。
🏛 支援機関とは、従来型の“つなぎ役”からの進化が求められる
育成就労制度における支援機関は、旧・監理団体の役割を一部引き継ぎつつ、
より実務的かつ生活支援に踏み込んだ包括的なサポート役へと進化が期待されています。
名称が「監理団体」から「監理支援機関」に変わっても、現場では「中身はあまり変わらないのでは」との見方も少なくありません。
しかし制度の趣旨は、“管理”から“伴走支援”への転換にあります。
📌 支援内容は「8類型」+「継続的モニタリング」
以下のような支援内容が義務付けられる見込みです:
分類 |
内容例 |
1. 情報提供 |
生活・就労ルールの多言語提供 |
2. 入国直後の定着支援 |
生活オリエンテーション/病院案内/SIM契約等 |
3. 日本語学習支援 |
教材の提供、学習方法の助言、地域教室の紹介 |
4. 相談・苦情対応 |
母語対応の相談体制の整備 |
5. 社会生活支援 |
公共施設利用の案内、地域イベントへの誘導 |
6. 転職時の支援 |
適正な職場選びの支援、トラブル回避 |
7. モニタリング |
定期的な現場訪問、本人との面談記録 |
8. 緊急時対応 |
病気・事故・災害等の緊急連絡体制 |
このような内容が求められることは、支援機関が従来よりも深く現場に入り込む必要があることを意味しています。
⚠️ 支援機関の“質”が制度の信頼性を左右する
- 形式的な支援では不満や孤立が解消されず、制度への不信につながる
- 法的トラブルや人権侵害の芽を早期に察知・対応できるかが重要
- 相談の“受け皿”から、“行動できる支援者”へと求められる役割は拡がっています
特に重要なのは、外国人本人の声を聞く姿勢と、多様な支援に応じられる専門的知識です。
🧭 BHRの視点から:支援とは「権利の行使を支えること」
BHR(ビジネスと人権)の視点では、
人権を尊重するとは、単に権利を与えることではなく、
その権利を“実際に使えるように支える”ことでもあります。
これは、国連の「ビジネスと人権に関する指導原則(UNGPs)」第25条・第29条に基づいており、
また国際人権規約等においても「実効的な救済へのアクセス」が人権の本質として位置づけられています。
支援機関の役割は、まさにその**「行使を支える伴走者」**です。
制度を“生きた仕組み”にする最前線の担い手といえるでしょう。
人権の構造 |
支援機関の役割 |
知る権利 |
情報提供、多言語化 |
主張する権利 |
相談窓口の整備と通訳体制 |
守られる権利 |
法的保護の導線整備、緊急時の対応 |
成長する権利 |
教育支援・キャリア支援との連携 |
💬信頼の積み重ねが、制度を支える
現場には、長年監理団体として制度を支えてきた多くの団体があります。
その知見と経験は、育成就労制度においても貴重です。
ただし、新制度ではその土台の上に、人を育て、暮らしを支える視点が求められます。
支援機関の真価は、旧制度からの継続的な取組に加えて、
「育成制度にふさわしい支え方」ができるかどうかにかかっています。
BHR推進社労士からのひとこと
私は、現場を否定せず、積み上げてきた努力を土台にしながら、
“人権配慮”を備えた支援体制”へのステップアップを支援したいと考えています。
制度が“制度として機能する”には、制度を動かす人の力が何よりも重要です。
✍️この記事を書いた人
烏脇 直俊(からすわき なおとし)
BHR(ビジネスと人権)推進社労士 / 外国人技能実習制度 外部監査人 / 行政書士(有資格・未登録)
外国人技能実習制度・育成就労制度を「人権の観点」から支援することを専門とする社会保険労務士。
監理団体・企業・自治体と連携し、制度対応から実務改善、職場の人権環境整備まで幅広くサポート。
「制度を“使う”だけでなく、“活かす”時代へ。」
制度改革に前向きに取り組みたい方は、どうぞお気軽にご相談ください。
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