【ビジネスと人権】研修は「育成」の第一歩 ――響く・伝わる・支える、入国後講習の質を問う 外国人労働者と人権 第22回(2025/7/16)
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育成就労制度の要は「人材育成」です。
そしてその出発点が、外国人が日本で働くにあたって最初に受ける「入国後講習」です。
単なる形式で終わらせていないか?
本当に伝わっているか?
制度の理念に照らして、研修の質と意義を改めて考えてみましょう。
🧳 入国後講習とは何か?
育成就労制度では、外国人労働者が在留資格を得て入国した後、
生活・労働・安全・法令・日本語に関する基本的知識を習得する講習が義務化されます(技能実習制度から継承)。
期間は概ね1ヶ月程度。
多くの受入れ機関では、研修センター等において集合研修形式で実施されています。
📘 講習の主要内容
分野 | 内容例 |
日本語 | あいさつ/時制/簡単な職場会話 |
労働法 | 労働時間・残業・有休・賃金・ハラスメントなど |
労働社会保険制度 | 健康保険・厚生年金・国民年金・雇用保険・労災保険・育児介護休業など |
安全衛生 | 危険予知/災害時対応/熱中症対策 |
生活ルール | ゴミ出し、交通安全、病院、買い物、地域との付き合い方など |
💬 研修の目的は「自立支援」である
入国後講習の目的は、外国人が日本で働き、暮らし、育っていくための土台づくりです。
「就労の前に最低限の知識を押し込む場」ではありません。
- 職場で困ったら誰に相談できるのか
- どんなルールを守れば良いのか
- 自分の身体とお金をどう守るか
こうした情報を、“本人が理解できる方法で”伝えることが何より重要です。
🧭 社労士の視点から:労働社会保険制度も丁寧に伝えるべき
特に私は、労働社会保険制度の理解促進が極めて重要だと考えています。
テーマ | なぜ重要か |
健康保険と国保の違い | 転職時・離職時の切替を誤ると無保険状態になる |
厚生年金と脱退一時金 | 10年加入で脱退不能になる前に判断が必要 |
傷病手当金 | 体調不良時の安心材料となる |
障害年金 | 将来を見据えた権利としての情報提供 |
国民年金の義務 | 在留3ヶ月超で加入義務/未加入なら障害年金が出ないことも |
雇用保険の基本手当 | 離職時に一定条件で失業給付を受けられる |
育児・介護休業制度 | 将来の家庭環境に備えた制度活用の可能性 |
労災保険制度 | 通勤・就業中の事故や病気への補償制度 |
外国人労働者が日本でキャリアを築いていく上で、これらの制度は避けて通れません。
理解と納得のないまま加入・控除されれば、制度への不信や混乱にもつながります。
⚠️ 形式だけの研修は逆効果
受講態度や理解度に関係なく、単にビデオを流して「1ヶ月消化」で終えるケースも残念ながら存在します。
これは制度の理念と真逆であり、本人にとっても、企業にとっても不利益です。
- 言語支援がなければ“分かったふり”になる
- 双方向でなければ“形だけ”で終わる
- 相談先を伝えなければ“孤立”を生む
形式的な研修は、信頼関係の構築を妨げるリスクさえあります。
💡「響く研修」に必要な工夫
工夫 | 実践例 |
母語での伝達 | 通訳の配置、または字幕・翻訳資料の活用 |
視覚的教材 | イラスト・動画・ロールプレイ等で印象に残す |
体験型学習 | ゴミ出し実習・買い物体験・病院案内ツアー |
チェック方式 | 理解度確認のクイズや質問タイムを設定 |
信頼構築 | 講師の自己紹介や“雑談”で距離を縮める工夫 |
✍️BHR推進社労士からのひとこと
制度の出発点は「講習」にあります。
だからこそ、ここで何を伝え、どう伝えるかが、その後の職場環境や制度定着に大きな影響を与えます。
私は、単なる説明会ではなく、“将来を支える伴走支援”としての研修設計を、制度の根幹と考えています。
✍️この記事を書いた人
烏脇 直俊(からすわき なおとし)
BHR(ビジネスと人権)推進社労士 / 外国人技能実習制度 外部監査人 / 行政書士(有資格・未登録)
外国人技能実習制度・育成就労制度を「人権の観点」から支援することを専門とすhttp://る社会保険労務士。
監理団体・企業・自治体と連携し、制度対応から実務改善、職場の人権環境整備まで幅広くサポート。
「制度を“使う”だけでなく、“活かす”時代へ。」
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