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【ビジネスと人権】「雇って終わり」にしない制度運用 ――育成就労に求められる“伴走型支援”の実際  外国人労働者と人権 第23回(2025/7/17)

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採用して終わりではありません。
入国後講習で一通り教えたから、それで十分でもありません。

外国人が日本で安心して働き、育ち、定着していくには、
受入れ後の日常的な支援=伴走支援が不可欠です。

今回は、育成就労制度における「伴走支援」の意味と、誰が担うのかという実際の体制
そしてそれを支える日本人従業員の役割と評価についても掘り下げます。

 


🧭 伴走支援とは何か?

伴走支援とは、単に情報を与えたり、窓口を設けたりするだけではありません。
外国人本人の不安や疑問に寄り添い、日々の成長と安心を支える継続的な支援活動のことを指します。

BHR(ビジネスと人権)の観点からも、これは「人権配慮の具体化」として制度に組み込まれるべきものです。

 


💬 なぜ「伴走」が必要なのか?

育成就労制度では、長期的な定着とキャリア形成が前提とされています。
しかし、言語・文化・法制度・人間関係のすべてが異なる環境において、自力で解決できるとは限りません。

状況

支援がなければ

生活上の困りごと

孤立・地域との断絶

労働条件の誤解

不満・トラブル・早期離職

健康問題

放置・症状悪化・生産性低下

ハラスメント

声を上げられない/事態の長期化

転職・キャリア相談

誤解や不安から制度離脱へ

つまり、伴走支援は離職や制度離脱を防ぎ、「人材育成」の土台を作る重要な工程なのです。


👥 誰が「伴走支援」を担うのか?

この問いに明確に答えられる現場は、まだ多くありません。
だからこそ、責任の所在を明らかにすることが制度運用の要です。

担い手

主な役割

受入企業

日常業務に関する支援/職場内相談/育成計画の実施

監理支援機関

定期モニタリング/苦情対応支援/多言語対応の補助

社労士・行政書士等の専門職

労務・社会保険・人権配慮に関する法的支援

自治体・NPO

地域生活支援・防災・地域交流・母語相談窓口

通訳・支援員(社内外)

日本語不安の解消/文化的な緩衝材としての橋渡し


💡そして実際に伴走しているのは――「現場の従業員」たちです

制度の設計や支援体制の整備も重要ですが、
日々の現場で、外国人と一緒に働き、指導し、時にフォローし、心を砕いているのは、職場の日本人従業員たちです。

BHRは、何も外国人だけを優遇する考え方ではありません。
外国人材とともに働く日本人従業員の負担や葛藤に対しても、正当な評価と支援が必要です。

こうした縁の下の伴走者たちへの感謝と評価を忘れたとき、それはもうBHRとは呼べません。

 


🛠 実際に必要とされる支援の例

分野

伴走支援の内容例

生活

ごみ出し・郵便・病院・転居・防災情報などの案内

就労

業務指導の補足・日本語支援・評価面談のフォロー

人間関係

上司・同僚との橋渡し/ハラスメント防止の調整役

法制度

労働社会保険・転職支援の正確な情報提供

緊急対応

体調不良・労災・災害・家族の問題などの相談窓口


📘制度設計上も「支援機関のモニタリング」や「相談窓口の設置」が義務化

育成就労制度では、以下のような支援体制が制度に組み込まれています:

これらはすべて、「雇って終わり」ではなく、「育てながら支える」という制度理念の具体化です。

 


✍️BHR推進社労士からのひとこと

育成就労制度を成功させる鍵は、「採用」よりも「定着」にあります。
そして定着には、日々のちょっとした不安に寄り添う人の力が必要です。

そのとは、1人の担当者ではなく、現場・支援機関・地域・専門職が連携した支援チームです。
そしてその中心には、外国人と同じ現場で働く日本人従業員の努力があります。

外国人材の人権を尊重するなら、それを支える従業員の努力にも、同じように光を当てなければいけません。
それを忘れたとき、BHRは有名無実になります。
私は、制度が現場に根づくために、現場を支えるすべての人の尊厳と貢献を大切にしたいと考えています。

 


✍️この記事を書いた人

烏脇 直俊(からすわき なおとし)
BHR
(ビジネスと人権)推進社労士 / 外国人技能実習制度 外部監査人 / 行政書士(有資格・未登録)

外国人技能実習制度・育成就労制度を「人権の観点」から支援することを専門とする社会保険労務士。
監理団体・企業・自治体と連携し、制度対応から実務改善、職場の人権環境整備まで幅広くサポート。

「制度を使うだけでなく、活かす時代へ。」
制度改革に前向きに取り組みたい方は、どうぞお気軽にご相談ください。

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24回:評価とフィードバックの透明性
「がんばり」は誰が、どう見る? 公正な評価制度の重要性。

 

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