【ビジネスと人権】相談窓口は“あるだけ”では機能しない ――信頼され、使われる相談体制のつくり方とは? 外国人労働者と人権 第26回(2025/7/22)
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「相談窓口は設置済み」「母語対応もしている」――
それでも、実際には相談がほとんど寄せられないという声が現場から多く聞かれます。
外国人材の支援において、「制度上の設置」と「実際に使われること」には大きな隔たりがあります。
今回は、育成就労制度における相談体制の実効性について、
BHR(ビジネスと人権)の観点からの重要性と、現場での実践例を交えてご紹介します。
🎯 なぜ「相談が機能しない」のか?
相談体制が機能しない主な理由は、以下のような“見えない壁”にあります:
見えない壁 | 内容 |
信頼関係の不足 | 誰が対応するかが不透明、報復を恐れる |
言語・文化のギャップ | 表現方法や相談のタイミングが合わない |
相談しても変わらない経験 | 過去の無視・形式対応が記憶に残っている |
自分の責任と思ってしまう | 困難を「我慢すべきこと」と捉えがち |
つまり、「制度にある」ことと「実際に相談する」ことは別物なのです。
🛠 制度上の整備と実務のギャップ
育成就労制度では、以下のような整備が求められています:
- 受入企業による相談窓口の設置(母語対応を含む)
- 監理支援機関による定期的ヒアリングと苦情対応支援
- 外部通報制度(入管庁・外国人支援センター等)への案内
これらは重要な制度的枠組みですが、
現場で「生きた仕組み」として使われるには、運用の工夫と信頼構築が欠かせません。
💬 BHR視点:相談体制は“人権のインフラ”
BHR(ビジネスと人権)の観点では、相談体制は単なる付属的な仕組みではありません。
それは、「声を上げる権利」と「声を聞く義務」をつなぐ人権保障のインフラです。
- 声を上げられる雰囲気があるか
- 声を聞いたあと、実際に行動があるか
- 声を上げたことによって不利益がないか
これらがすべて揃ってはじめて、相談体制は信頼され、使われるものになります。
👥 信頼される相談体制のつくり方
工夫のポイント | 実例・補足 |
担当者の「顔が見える」状態 | 相談担当者の紹介動画、定期の声かけ |
多言語ポスターや図解案内 | 視覚的にわかりやすく、掲示場所にも配慮 |
相談してもいい“雰囲気”づくり | 日常的な対話、感謝の言葉、世間話の中から気づく |
小さな声も拾う仕組み | 「相談」ではなく「アンケート」形式などで心理的ハードルを下げる |
苦情を受け止める訓練 | 担当者向けの傾聴・対応スキル研修を実施 |
📢 外部連携の重要性
- 監理支援機関の役割:企業では拾えない相談を第三者の立場で把握・是正
- 社労士・弁護士等の専門職:労務・人権・法的な視点からの支援
- 地域NPO・多文化共生センター:生活相談・緊急支援のセーフティネット
すべてを1社で担う必要はありません。つながることで、支えられる仕組みを整えることが現実的です。
🚧 難しい相談・重大事案に備える
- ハラスメントや虐待、法令違反などの重大案件では、**「内部処理に限界がある」**こともあります
- このような場合に備え、外部の専門家や通報先とあらかじめ連携・準備しておくことが重要です
- 対応フローを文書化し、関係者に周知することで、混乱や隠蔽のリスクを防ぎます
✍️BHR推進社労士からのひとこと
「何かあったら相談して」――この一言で本当に相談できるなら、苦労はありません。
相談とは、「信頼と準備」の上にしか成り立たない繊細なやりとりです。
制度だから設置するのではなく、
“この人たちなら話せる”と思ってもらえるかどうかが、すべての出発点です。
相談窓口とは、“制度の窓”ではなく“心の窓”でもあります。
私たち支援者や企業が問われているのは、その“窓の開け方”なのかもしれません。
✍️この記事を書いた人
烏脇 直俊(からすわき なおとし)
BHR(ビジネスと人権)推進社労士 / 外国人技能実習制度 外部監査人 / 行政書士(有資格・未登録)
外国人技能実習制度・育成就労制度を「人権の観点」から支援することを専門とする社会保険労務士。
監理団体・企業・自治体と連携し、制度対応から実務改善、職場の人権環境整備まで幅広くサポート。
「制度を“使う”だけでなく、“活かす”時代へ。」
制度改革に前向きに取り組みたい方は、どうぞお気軽にご相談ください。
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