農業安全とビジネスと人権(BHR推進社労士の視点)(2025/8/20)
令和4年、農業における死亡者数は238人。
就業者10万人当たりの死亡者数で見ると、建設業の5.9人に対して、農業は11.1人と約2倍のリスクを抱えています。
農業は自然と隣り合わせの産業であると同時に、農業機械や農薬など、危険性の高い作業が日常的に存在する職場です。まずは「農作業は危険を内包している」という自覚が出発点となります。
法改正:農業における教育省略規定が廃止
これまで農業分野では、労働安全衛生規則第35条に定める雇入れ時等教育のうち、①~④の項目を省略できる特例がありました。しかし、令和6年3月末で廃止され、農業を含む全産業で同等の教育義務が求められることになりました。
事業者は、労働者を雇い入れる際、または作業内容を変更する際に、次の8項目について教育を実施する必要があります。
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機械・原材料の危険性や有害性、その取扱方法
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安全装置・保護具の性能と使用方法
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作業手順
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作業開始時の点検方法
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業務に伴う疾病の原因と予防
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整理・整頓・清潔の保持
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応急措置や退避方法
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その他安全衛生に必要な事項
これに加えて、フォークリフトや油圧ショベル、移動式クレーン等の運転には、特別教育や技能講習の受講が不可欠です。
農業現場で特に注意すべきポイント
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機械・設備の危険個所教育
取扱説明書や警告ラベルを基に、安全な操作方法を徹底教育する。 -
刈払機の安全使用
労働者同士の距離は15m以上確保。防護具・服装の徹底。 -
農薬散布
ゴーグルや保護具は清潔に保ち、専用の保管場所で管理。 -
高所作業
脚立・はしご作業は軽視されがちだが墜落リスク大。必ず手すりのある作業床を確保し、安全帯は正しい装着方法を教育。
BHR(ビジネスと人権)の観点から
「安全教育」は単なる法令遵守の問題ではなく、労働者の命と人権を守る経営責任そのものです。
国連ビジネスと人権指導原則(UNGPs)やILOの労働安全衛生に関する基準でも、労働者の安全・健康は「企業が守るべき人権」の中心に位置づけられています。
農業法人の法人化や外国人材の受け入れが進む今こそ、
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**「安い労働力」ではなく「安全で尊重される労働環境」**を整えること
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持続可能な農業経営の基盤として人権を尊重すること
が、これからの農業経営者に問われています。
まとめ
農業は、自然とともに歩む魅力ある産業である一方で、多くのリスクを内包しています。
雇入れ時教育の省略規定廃止は、農業も例外ではなく、人権を守る責任を担う産業であることを示しています。
BHR推進社労士として私は、農業法人・農家の皆さまが「安全と人権を両立させた経営」を実現できるよう、制度面・実務面から全力で伴走していきます。
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