10万事業場が法違反――なぜ“基本”が守られないのか? BHR推進社労士の視点より(2025/9/5)
1.驚くべき監督結果
厚生労働省が公表した令和6年の監督業務実施状況によれば、14万2477事業場を調査した結果、実に70.1%にあたる9万9906事業場で法令違反が確認されました。
労働基準法違反の代表例は「労働時間管理」「割増賃金不払い」「労働条件の明示不足」。労働安全衛生法関係では「安全基準」「健康診断未実施」が目立ちます。
しかも送検件数は972件と増加し、賃金不払い関連が最多。これは「単純なミス」ではなく、意図的・構造的な問題を示しています。
2.基本が守られていない現実
労働時間を記録し、割増賃金を払う。健康診断を行い、労働条件を書面で明示する。――これらは労働法の「初歩の初歩」です。
それが7割の事業場で守られていない現実は、単に「制度が複雑だから」「中小企業だから」という言い訳では済まされません。
背景には「人を人として尊重する意識の欠如」があります。
3.BHRの視点:人権としての労働
ビジネスと人権(BHR)の考え方では、労働条件の確保は単なるコンプライアンスではなく「人権尊重の最低基準」です。
ILOが提唱するディーセントワーク(働きがいのある人間らしい仕事)も同じ方向を示しています。
賃金不払いは「労働の対価を否定すること」であり、長時間労働は「健康と生命への侵害」です。どちらも人権問題にほかなりません。
4.なぜ今こそ取り組むべきか
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労働力不足が深刻化する中、人権を軽視する企業は人材を確保できません。
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国際社会からも「人権デューデリジェンス」が求められており、輸出産業やグローバル企業だけの課題ではなくなっています。
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国内監督行政も厳格化しており、送検事例の増加はリスクを示す警鐘です。
5.社労士からの提起
「法令遵守」ではなく「人権尊重」を軸に労務管理を見直すこと。
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労働時間を正しく把握すること
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割増賃金を確実に支払うこと
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安全と健康のための最低限の措置を怠らないこと
これらは事業継続のコストではなく、人権尊重の入口であり、企業の持続可能性を支える投資です。
結び
70%もの事業場が違反を指摘されたという事実は、社会全体で「労働の基本=人権の基本」が軽視されてきたことの表れです。
今こそ「働く人を人として尊重する経営」へ、BHRの視点から大きな転換を図るべき時期に来ています。
今回の結果は、労務管理の不備ではなく、企業における人権尊重の欠如を示しています。労働時間の把握、割増賃金の支払い、健康診断の実施といった最低限の義務すら守れない事業場が7割に達することは、社会にとって重大なリスクです。
社労士の役割は法令遵守の指導にとどまりません。ビジネスと人権(BHR)の観点から、企業が「人を人として扱う」体制を築くことを支援することが使命です。いま求められているのは、形式的なコンプライアンスではなく、経営の根幹に「人権尊重」を据える姿勢です。
≪ 恐竜の絶滅に学ぶ――企業が生き残るためのBHR BHR推進社労士の視点 | 過去最多の監督指導が示す警鐘 ― 技能実習とビジネスと人権(BHR)の課題 ≫
