特定技能「農業」をクリーニング工場に派遣 ― 制度誤解では済まされない深刻事件 BHR推進社労士の視点(2025/9/11)
1. 事件概要
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山梨県の登録支援機関「スクラムヒューマンパワー」の社長らが、特定技能制度を悪用し、農業分野の資格しか持たないインドネシア人をクリーニング工場に派遣したとして、出入国管理法違反(不法就労助長)で逮捕された。
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2022年12月以降、約120人をこの工場に違法派遣し、約7,000万円の手数料を得ていた疑い。
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社長の供述では「農業の仕事がないときは工場でも働けると思っていた」とあり、制度の範囲を越えた運用がなされていた。
2. 農業特定技能の特例制度(複数事業所・複数農場での就労が認められる制度)
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農業分野には、繁忙期・閑散期があり、仕事量・人手の需要が季節変動するため、柔軟な雇用形態が必要とされている。
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そのため、農業分野特定技能では、所属機関(雇用主)が雇用契約を結んだうえで、複数の農業者のほ場(農地・作業場)で業務を行うことが可能。いわゆる 複数農場での就労 が制度上認められている。
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また、農業特定技能では、「派遣」による受入れ(派遣事業者が雇用し、農業者に派遣する形)も認められており、この場合も複数の農業者で働くことができる。
3. 誤解か悪用か?悪質性の所在
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社長の言う「農業以外の工場で働けると思っていた」は、制度の「複数農場での就労」特例と混同しているか、意図的な拡大解釈をした可能性がある。
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制度をよく知る立場である登録支援機関が、このような誤用をするのは制度軽視であり、悪質。
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被害を受けるのは、制度を信じて来日した外国人労働者。彼らの安全、賃金や就業条件、生活の見通しが著しく損なわれる。
4. BHR(ビジネスと人権)の観点
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このような違法・誤用は、外国人労働者の人権リスクを高める(不安定性、職場環境の不備、強制労働など)。
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制度そのものへの信頼を損ない、まともに運用している受入れ機関や農場にも悪影響。制度崩壊の一因になりうる。
5. 提言(制度順守と再発防止のため)
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登録支援機関は制度を正しく理解し、透明性を持って運用すること。
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農業特定技能外国人が従事できる業種(農業分野)の範囲を明確にし、それ以外は就労させない。
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農業特定技能の支援計画・契約書等に「どの農業者・ほ場で働くか」「派遣形態かどうか」などをきちんと記載。
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定期的な内部監査と外部チェック、人権思考を含む研修の導入。
6. 最後に
この事件は、制度を守ろうとしている多くの登録支援機関・農家・外国人にとって非常につらい裏切りである。
登録支援機関は、外国人が安心して日本で生活し、働けるようにするパートナーであるはずだ。
信頼を築くという責任を忘れてはならない。
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