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~広島労働局の発表から見えるBHRの課題~「ビジネスと人権」から見る特定技能の安全衛生──ILO155号条約と人を資本とする経営(2025/11/5)

広島労働局が初めて公表した監督指導結果によると、特定技能外国人を雇用する事業場のうち79%で法令違反が確認されたといいます。
違反の多くは、安全基準や健康診断の医師意見聴取など、安全衛生に関わるものでした。数字の背後には、現場で働く人たちの命や健康、そして尊厳が静かに揺らいでいます。

ILO第155号「労働安全衛生及び作業環境条約」は、労働における安全と健康を「すべての労働者の基本的権利」と位置づけています。
この条約は、国家や企業に対し、危険を未然に防ぐ体制を整えること、労働者が安全な環境で働けるようにすることを求めています。
日本はこの条約をまだ批准していませんが、その理念は国内法にも深く息づいています。
たとえば労働安全衛生法や労働基準法の根底には、まさにこの条約が示す「安全衛生は権利である」という考え方が流れています。

一方、特定技能制度のもとでは、受入れ企業・登録支援機関・監理団体など、複数の主体が関与する構造が取られています。
しかし責任が分散しがちなこの仕組みの中で、現場の安全確保が後回しになることがあります。
労働時間の管理、安全教育の徹底、保護具の着用といった一つひとつの配慮が、形式的に済まされることも少なくありません。
その結果が、今回の「79%」という数字に表れているように思えます。

報告の中には、月100時間を超える時間外労働が行われていた事例もありました。
長時間残業は単なる労基法違反ではなく、健康と人間の尊厳を侵す行為です。
企業が人を「生産手段」として扱うとき、その瞬間に人権侵害が始まります。

私たちは今、「人をコストと見るか、資本と見るか」という問いの前に立っています。
ILOが示す安全衛生の理念は、単なる労働保護ではなく、企業の持続可能性を支える「人を資本とする経営」の根幹です。
現場で汗を流す人が、安心して働ける環境を整えること。
それは、経営の効率化でも規制遵守でもなく、「人間を中心に置く経営」への投資にほかなりません。

BHR(ビジネスと人権)は、その理念を企業経営の中に根づかせるための道標です。
安全と健康を守ることこそが、人権を守ること──。
その当たり前を静かに、しかし確かに取り戻すときです。

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