ヤマト運輸×特定技能外国人の大型ドライバー育成モデル BHR推進社労士の視点から(2025/12/2)
― 留学期間の生活費設計と「大型免許」が制度を脆弱化させる可能性 ―
※本記事は、労働新聞の記事内容のみに基づく論評であり、企業の意図や詳細設計を断定するものではありません。
■ 1.制度設計は先進的である。ただし、最大の弱点がある
ヤマト運輸とFPTコーポレーションが協業し、
ベトナムから毎年100名の大型トラック運転者を育成する計画が紹介された。
現地で半年間の日本語+安全運転教育
来日後は留学生として1年間の学習
特定技能1号の資格取得
大型免許も取得
教育費はヤマトが負担
制度設計そのものは、大手企業としては画期的であり、物流業界全体に影響を与える可能性を秘めている。
しかし、この記事の内容だけを見る限り、
制度の急所ともいえる“生活費設計”が本人任せになっていることが気がかりである。
■ 2.留学期間の生活費を「週28時間のアルバイト」で賄う前提の危うさ
記事では、留学期間中の生活費は本人がアルバイトで賄う予定とされている。
しかし、資格外活動の上限である
週28時間以内の就労で生活費を維持できるのか?
週28時間
時給1,050円前後(地方の相場)
→ 月約11.8万円
ここから家賃・食費・保険料などを払えば、ほとんど残らない。
突然の支出があれば赤字になる水準であり、生活は常に不安定だ。
生活費が不安定=違法就労・不適正労働・借金のリスク
という典型的な“脆弱性”を生む構造である。
本来の留学生とは異なり、今回のような
「就労目的の留学生」に対して、家族の経済支援が期待できるかも不透明だ。
制度の要であるはずの留学期間の設計が甘いと感じざるを得ない。
■ 3.大型免許の取得は魅力である反面、「拘束力」の懸念を生む
記事によると、来日後に日本の運転免許への切替えだけでなく、
大型自動車第一種免許の取得も目指すとされている。
企業が教育投資を行い、スキルを付与すること自体はすばらしい。
しかし国際的には、
技能付与が“実質的拘束力”になり、強制労働と評価されるケースがある
ことは、ILO・国連指導原則が繰り返し警告しているポイントだ。
高額な教育費
大型免許という職業特化スキル
返還義務の有無が不透明
離脱しにくい構造
→ 「退出の自由」が制限されれば“胴元拘束”の評価につながる。
ヤマトはこのリスクをどう認識しているのだろうか。
この記事だけでは、
BHR(ビジネスと人権)に基づいた検証がどこまで行われたのか、見えてこない。
■ 4.制度設計にBHR専門家は関与したのか?
日本企業で外国人材制度を構築する際、
BHRに精通した弁護士や社労士が関与することは極めて重要である。
留学制度と就労制度の境界
拘束的契約の有無
移動の自由・退出の自由
教育費負担の適正
弱い立場に置かれた労働者の搾取リスク
サプライチェーン上の責任
このような論点は、制度開始前に必ず検討されるべきだ。
今回のスキームはスケールが大きく、社会的影響も大きいにもかかわらず、
記事からは 「BHR専門家の伴走」 の気配が読み取れなかった。
記事に書かれていないだけだとしても、
制度そのものに潜む構造的リスクの大きさを考えると、
専門家によるチェックが不可欠である。
■ 5.私は普段“批判的な記事”は書かない。しかし今回は敢えて書いた
私は基本的に、企業努力を批判することを目的とした記事を書くつもりはない。
むしろ外国人材制度を適正化し、活用を支える立場でありたいと考えている。
しかし、今回だけはあえて批判的に綴った。
理由は一つ。
制度設計の甘さが、将来の当事者(外国人)を傷つける可能性があるからだ。
生活費の不安定さ、技能付与による拘束リスクは、
外国人材が搾取されやすい典型的要因である。
労働新聞の記事だけではあるが、
その懸念が払拭できなかったため、専門家として筆を執った。
■ 6.最後に:批判は目的ではない。改善への「警鐘」である
ヤマト運輸の取り組みは、物流業界に大きな希望をもたらす可能性を秘めている。
だからこそ、
生活費設計
退出の自由の確保
教育費返還の透明化
契約構造の非拘束化
BHR専門家による事前検証
ここを整えなければ、
大企業の英断が「実習制度の焼き直し」と揶揄されかねない。
制度を良い形で育てるためにも、
今回の記事内容を踏まえた慎重な再検討を期待したい。
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