心の健康は「個人の問題」ではない──啓発のために知っておきたいBHRの視点 BHR推進社労士より(2025/12/16)
「最近、元気がない社員がいる」「離職が続いている」「事故やミスが増えている」──。
こうした兆しの背景に、心の健康(メンタルヘルス)の問題が潜んでいることは少なくありません。ただし、BHR(ビジネスと人権)の視点から見ると、心の健康は本人の弱さや自己管理の問題ではなく、企業・組織の責任として捉えるべきテーマです。
国連の「ビジネスと人権に関する指導原則(UNGPs)」でも、企業には人権を尊重する責任があり、その出発点としてトップの明確なコミットメントが求められています。
なぜ「トップのコミットメント」が啓発の出発点になるのか
メンタルヘルス対策や人権配慮の取組が形骸化する最大の理由は、
- 現場任せになっている
- 担当者レベルの善意に依存している
- 経営の優先順位が曖昧
という点にあります。
BHRの考え方では、経営トップが人権尊重を明言し、方針として示すことが、すべての施策の起点です。
トップが「心の健康は重要だ」「人権侵害は許さない」と言葉と行動で示すことで、
- 管理職が部下の不調に目を向けやすくなる
- 無理な働かせ方にブレーキがかかる
- 相談や配慮が“特別扱い”ではなくなる
といった職場文化の変化が起こります。
心の健康と人権は、密接につながっている
心の不調は、単なる健康問題にとどまりません。
- 過重労働
- ハラスメント
- 孤立や差別
- 相談できない職場風土
これらはすべて、人権侵害リスクとしてBHRでは整理されます。
「我慢させてしまった」「忙しいから仕方がない」
こうした判断の積み重ねが、結果として労災、休職、離職、さらには紛争へと発展するケースも少なくありません。
だからこそ、心の健康への配慮は、
福利厚生ではなく、人権尊重の実践
として位置づける必要があります。
人権方針を作成することの啓発的な効果
「人権方針」と聞くと、
- 大企業向け
- 形式的な宣言
- 現場では使えない
と感じる方も多いかもしれません。しかし、実務の現場では次のような具体的な効果があります。
① 判断基準が明確になる
心の不調が疑われる場面で、
- どこまで配慮すべきか
- 何を優先すべきか
に迷ったとき、人権方針が判断の軸になります。
② 管理職・現場を守る
トップが示した方針に基づく対応は、
- 「甘やかしている」
- 「前例がない」
といった批判から、現場を守る役割も果たします。
③ 相談しやすい空気をつくる
人権方針に「心の健康への配慮」「相談を理由とした不利益取扱いをしない」ことが明記されていれば、
相談する側の心理的ハードルは大きく下がります。
心の健康に配慮する職場は、結果的に強い
BHRは「理想論」ではありません。
- 離職率の低下
- 事故・トラブルの予防
- 採用時の信頼性向上
- 外部からの評価(取引先・金融機関)
といった形で、経営上のメリットとして返ってきます。
特に農業や中小事業者の現場では、
人が抜けること自体が経営リスク
です。
心の健康を守る仕組みを整えることは、人を大切にするだけでなく、事業を守ることにもつながります。
まとめ:気づきを共有し、言葉にすることから
完璧な制度や体制を、最初から整える必要はありません。
まずは、
- トップが人権と心の健康を重視する姿勢を示す
- 簡潔でもよいので人権方針として言語化する
この一歩が、職場を確実に変えていきます。
心の健康を守ることは、働く人の尊厳を守ることです。
この考え方を、経営者だけでなく、管理職、現場の一人ひとりが共有すること。
それがBHRに基づく啓発の第一歩であり、職場全体の安心感につながっていきます。
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