労基署への未払い賃金相談|会社へ言っていない場合でも相談できる?準備したい資料も解説(2026/5/18)
労基署が未払い賃金などの申告を原則全件受理へ―相談しやすくなった今、知っておきたいこと
※本記事は、労働新聞の記事「厚生労働省が令和8年度、労働者などからの申告を原則全件受理する方針」に関する報道内容をもとに執筆しています。
厚生労働省が令和8年度の監督指導方針において、労働者などからの申告について、
「労働基準関係法令違反を構成しないことが明白な場合を除き、原則全件受理する」
という方針を示したことが報じられました。
私自身、この内容を見て少し驚きました。
今回の大きなポイントは、「労働者が事前に使用者へ未払い賃金等を請求していないこと」を理由として、申告を受け付けない運用をしないことが明確になった点です。
報道によれば、通知では、
「受理の前提として、労働者に対して使用者への請求行為を求めることは厳に慎むこと」
とされています。
これは、労働者側にとって相談しやすい環境整備という意味で、大きな転換点になる可能性があります。
「会社へ言ってから来てください」が実質的な壁になっていた可能性
もちろん、これまでも法律上、「会社へ請求したこと」が申告要件だったわけではありません。
ただ、現場では、
「まず会社へ話してみましたか?」
「未払い分を請求しましたか?」
というやり取りがあったケースもあったのかもしれません。
労働者側からすると、
- 会社との関係が悪くなるかもしれない
- 言った瞬間に働きづらくなるかもしれない
- 小規模事業所で社長との距離が近い
- ハラスメント等への不安がある
など、さまざまな事情があります。
結果として、相談への心理的ハードルになっていた可能性は否定できません。
BHR(ビジネスと人権)の視点から見ても重要な変化
これは、BHR(ビジネスと人権)の視点から見ても興味深い動きです。
企業には、人権侵害が発生した場合に救済へアクセスできる仕組み、いわゆる「苦情処理・通報メカニズム(Grievance Mechanism)」の整備が求められています。
社内窓口だけではなく、
- 外部相談窓口
- 第三者相談先
- 行政窓口
なども重要な救済手段です。
今回の方針は、労基署という外部相談窓口の機能強化という側面からも評価できるのではないかと思います。
「会社へ言えなかった人が、相談できる」
これは決して小さな変化ではありません。
ただし、相談しやすくなることと、動きやすくなることは別
ここは非常に大切な点です。
相談件数が増えたとしても、労基署も限られた人員で対応しています。
そのため、相談内容が整理されているかどうかは非常に重要になります。
私自身、実務でも感じることですが、事実関係や資料が整理されているケースほど、状況が把握しやすくなる傾向があります。
私自身の労基署に対する印象
ここは少し個人的な所感になります。
私自身、これまで実務の中で労基署の方と接する機会がありましたが、真面目で厳格な方が非常に多いという印象があります。
労働基準法をはじめとする法令を守る立場ですから、当然と言えば当然かもしれません。
一方で、現実問題として労基署にも限られた人員や時間があります。
今回、申告が原則全件受理となれば、相談件数がさらに増えていく可能性もあります。
だからこそ、私は「何でも労基署へ」という考え方ではなく、本来は会社と従業員が対話を通じて解決できることが最も望ましいと思っています。
もちろん、対話が難しいケースもあります。
ハラスメント、長時間労働、未払い賃金など、社内で声を上げにくい状況も現実には存在します。
そのため外部相談窓口は非常に重要です。
しかし、日常的な職場環境の改善という意味では、労使双方が話し合い、互いの立場を理解しながら改善していくことが、本来最も理想的な形ではないでしょうか。
BHRでは「ステークホルダーエンゲージメント(対話)」という言葉があります。
難しい言葉に聞こえるかもしれませんが、簡単に言えば、
「問題が深刻になる前に、お互いが声を出せる関係をつくること」
だと私は考えています。
労基署へ相談する際に整理しておきたい資料
例えば未払い賃金であれば、
【1】労働条件が分かるもの
- 雇用契約書
- 労働条件通知書
- 就業規則
【2】働いた事実が分かるもの
- タイムカード
- 勤怠システム画面
- シフト表
- 業務日報
- LINEやメール等の勤務指示
【3】支払状況が分かるもの
- 給与明細
- 通帳記録
【4】時系列メモ
例:
○月○日 9:00~22:00勤務
○月○日 残業代について相談
○月○日 回答なし
完璧である必要はありません。
ただ、
「何が起きたか」
「いつ起きたか」
「何が証拠になるか」
を整理しておくだけでも状況は大きく変わります。
中小企業への一言
今回の内容を「労基署が厳しくなった」「従業員がすぐ労基署へ行く時代になった」と受け止める方もいるかもしれません。
しかし別の見方をすると、
「社内で声を上げづらかった問題が、外へ出てきやすくなった」
とも言えるのではないでしょうか。
問題が起きない会社はありません。
大切なのは、問題が起きないことではなく、声を上げやすく、改善できる環境があることだと思います。
外部相談窓口の機能強化は、会社にとっても自社の課題に気付く機会になるかもしれません。
従業員への一言
一方で、「労基署へ相談できるようになった」ということは、「何も準備しなくても大丈夫」という意味ではありません。
相談する側も、
- 事実を整理する
- 感情だけではなく経過を整理する
- できる範囲で資料を集める
こうした準備があることで、状況は伝わりやすくなります。
相談は「戦うこと」が目的ではありません。
働く環境を改善したい、自分の権利を守りたい、そのための一歩として考えていただければと思います。
労基署の相談しやすさと、相談する側の準備。
そして、本来は労使双方の対話による改善。
その両方がそろって初めて、本来の救済や働きやすい職場づくりにつながるのではないでしょうか。
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