法改正が示す、これからの農業経営(2026/8/1)
令和8年7月10日、「労働者災害補償保険法等の一部を改正する法律」が参議院本会議で可決・成立しました。
今回の改正では、一定の疾病に係る労災保険給付請求権の消滅時効期間の延長や遺族補償年金の支給要件の見直しに加え、小規模・個人経営の農林水産業を対象としていた「暫定任意適用事業」の廃止が盛り込まれました(施行日は公布の日から起算して5年以内の政令で定める日)。
私は、この改正は単なる制度改正ではなく、これからの農業経営の方向性を示すメッセージでもあると感じています。
農林水産省の統計によると、農作業中の死亡事故は毎年200人を超えており、近年では建設業の労働災害死亡者数を上回る年もあります。トラクターなどの農業機械による事故や転倒・転落事故、熱中症など、農業は依然として命に関わる事故の多い産業です。
一方で、農家数は減少を続けていますが、農業法人は増加傾向にあります。家族経営を中心とした農業から、従業員を雇用する経営へと変化が進んでおり、それに伴い、労務管理、とりわけ労働安全衛生の重要性はますます高まっています。
さらに、近年の猛暑は農業現場に大きな影響を与えています。熱中症は重大な労働災害であり、これまで以上に現場に応じた安全衛生対策が求められる時代になりました。
実際に、私が日頃から関わらせていただいている花き農家では、複数のビニールハウスで栽培を行っています。夏場のハウス内は非常に過酷な環境となるため、経営者自身が「この暑さは危険だ」という認識を持ち、従業員の皆さんともその危険性を共有されています。
そのため、夏場は1時間ごとに休憩を取るよう作業計画を見直し、30分経っていなくても少しでも体調に異変を感じた場合は、ためらわず休憩するよう指示されています。
また、水分も十分に準備し、「無理をしないこと」「従業員同士がお互いに声を掛け合い、無理をさせないようにしよう」ということを日頃から呼びかけています。
この取組に特別な設備はありません。しかし、危険を全員が共有し、お互いを気遣いながら作業を進めることが、働く人の命と健康を守ることにつながっています。
私は、今回の法改正が伝えていることは、「制度が変わった」ということだけではないと考えています。
これからの農業経営では、「人を守ること」が経営そのものの重要な要素になる。
そのような時代に入ったことを示す改正ではないでしょうか。
農業は、人がいて初めて成り立つ産業です。
だからこそ、労務管理、とりわけ労働安全衛生への取組は、法令を守るためだけではなく、働く人の命を守り、安心して働ける職場をつくり、農業経営を未来へつないでいくための大切な経営課題であると私は考えています。
今回ご紹介した花き農家の取組は、経営者の皆様からすれば「当たり前」のことかもしれません。しかし、その「当たり前」を日々実践し、働く人の命と健康を守ろうとする姿勢こそ、これからの農業経営に求められる大切な価値ではないでしょうか。
私は、このような現場の積み重ねが、「人を大切にする経営」の原点であり、ビジネスと人権(BHR)の考え方にも自然につながっていくものと考えています。
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