労働供給制約社会に備える中小企業の人権尊重経営(2026/8/22)
事業を継続し、次につなぐために
日本では、生産年齢人口の減少を背景として、人手不足が一時的な問題ではなく、構造的な問題となっています。
厚生労働省は現在の人手不足を「長期的かつ粘着的」と捉えています。また、経済産業省も「労働供給制約社会」を前提として、賃上げ、生産性向上、成長投資、事業再編などの必要性を示しています。
中小企業庁も「現状維持は最大のリスク」として、これまでの事業や組織のあり方を見直し、環境変化に対応していく必要性を指摘しています。
これらの公的資料から見えてくるのは、中小企業を取り巻く経営環境そのものが、大きく変わりつつあるということです。
労働供給制約は「備えるべき環境変化」
人口減少や、それに伴う労働供給制約そのものを、一つの企業の努力によって止めることはできません。
もちろん、女性や高齢者の就業促進、外国人材の活用、AI・デジタル化、省力化、生産性向上など、社会全体でさまざまな対策が進められています。
こうした取組によって影響を小さくすることはできます。しかし、人口構造そのものを一企業が変えることはできません。
その意味では、労働供給制約は、地震や台風などの自然災害と似た側面があります。
いつ、どの程度の影響が自社に及ぶのかを正確に予測することは難しくても、環境が変化していくことが分かっているのであれば、その影響を小さくするために備えることはできます。
これは、企業における防災やBCPの考え方とも共通します。
大切なのは、災害そのものを止めることではなく、起きたときの影響をできるだけ小さくし、事業を継続できるよう準備しておくことです。
労働供給制約についても、同じように考えることができるのではないでしょうか。
人手不足が深刻になってから対応するのではなく、人が少なくなる社会でも事業を続けられるよう、まだ余力のあるうちから備えておく。
これが、これからの中小企業に必要な視点の一つだと考えます。
事業を残すために、企業も変わる
労働供給制約社会に対応するためには、企業自身も変わっていく必要があります。
人材獲得競争や賃金上昇への対応だけではありません。
生産性向上、価格転嫁、高付加価値化、AIや設備への投資、不採算事業の見直しなど、それぞれの企業が自社の状況に応じた変化を進めていく必要があります。
そして、事業を残す方法は、自社だけで事業を続けることだけではありません。
後継者への事業承継や、M&Aによって別の企業へ事業を引き継ぐことも、大切な事業を次につないでいくための選択肢です。
これからの中小企業にとって重要なのは、「現在の会社の形をそのまま守ること」だけではなく、「大切な事業をどのような形で次につないでいくのか」という視点ではないでしょうか。
事業を残すために必要な「人」
自社で事業を続けるのであれば、その事業を担う人が必要です。
AIや設備投資によって省力化を進めても、事業を動かし、技術や経験を引き継ぎ、顧客や取引先との関係を維持する人の存在がなくなるわけではありません。
事業承継やM&Aでも同じです。
次の担い手へ引き継ぐものは、設備、商品、顧客、財務だけではありません。
そこで働く人、その人たちが持つ技能や経験、顧客や取引先との関係、長い時間をかけて形成されてきた組織や職場も、事業を構成する大切な要素です。
つまり、
自分たちで事業を続ける場合にも、誰かに事業を引き継いでもらう場合にも、「人」が重要になります。
では、労働供給制約社会において、その「人」のために企業は何をすればよいのでしょうか。
答えは、意外とシンプルです。
人が働き続けられる会社をつくる
これまでのように、
「人が辞めたら、新しい人を採用すればよい」
という対応は、労働供給制約が進むほど難しくなっていきます。
だからこそ、これからは「どう採用するか」だけではなく、**「人が働き続けられる会社になっているか」**という視点が重要になります。
ここに、人権尊重経営がつながります。
人権尊重経営というと、「社会的責任」や「コンプライアンス」として捉えられることが少なくありません。
もちろん、それらも重要です。
しかし、労働供給制約社会という経営環境から考えると、人権尊重経営にはもう一つの意味が見えてきます。
人を尊重し、人が働き続けられる会社をつくることは、大切な事業を残し、次につないでいくための備えにもなる。
自社で事業を続ける場合にも、事業承継やM&Aによって次の担い手につなぐ場合にも、人や技能、経験、顧客との関係、組織として蓄積されてきたものが残っていることは、大きな意味を持ちます。
人を尊重することと、事業を残すことは、別々の話ではありません。
労働供給制約社会に、どう備えるか
労働供給制約社会への対応には、生産性向上、賃上げ、価格転嫁、AI、省力化、事業再編、事業承継、M&Aなど、さまざまな選択肢があります。
何が正解なのかは、企業によって異なります。
しかし、「人」という側面から考えるのであれば、目指すところはそれほど複雑ではありません。
5年後、10年後も、人が働き続けられる会社になっているでしょうか?
労働供給制約そのものを、一企業が止めることはできません。
しかし、その影響に備えることはできます。
人が働き続けられる会社をつくる。
それは単なる福利厚生や人材確保策ではなく、労働供給制約社会の中で、大切な事業を残し、次につないでいくための「人」の側からの備えでもあります。
そして私は、ここに中小企業における人権尊重経営の大きな意味の一つがあると考えています。
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